あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

本・動画感想

出合えて良かった!『西荻窪三ツ星洋酒堂』

ネットフリックスのトップ画面に表示され、なんとなく気を惹かれて再生ボタンをクリックしたら、気持ちのあったかくなる素敵なドラマに出合えた。 以前、原田知世さん主演のドラマ『スナックキズツキ』を紹介したが、あのドラマの舞台の喫茶店をバーにしたよ…

名作になりそうだった『月への梯子』樋口有介著

6室のアパート「幸福荘」の大家福田幸男は、40歳であるが、小学校の低学年くらいの学力しかない。近所で総菜屋を営む幼馴染の京子とその母親だけは昔ながらの「サッちゃん」と呼ぶが、その他の人々には「ボクさん」と呼ばれている。 幸福荘は20年ほど前に幸…

ひたひたと心を満たす『きみのためのバラ』池澤夏樹著

勘違いから、乗るはずの便を逃し空港で戸惑う男の物語に始まって、世界各地を舞台にした物語を集めた池澤さんの短編集。出不精でいまだ自分の国を一歩も出たことのない私でも、寒中の日本に居ながらにして、南の島に行ったり、ここ以上に寒々とした北欧の空…

昔むかしの「月9」を見る

録画したいドラマがかち合っていったんは諦めたドリフのドラマだったが、marcoさん(id:garadanikki)の感想を読んでやはり見たかったなと思った。コメントにそんなことを書いたところ、FODを利用して見ることを教えていただき、早速登録して視聴した。 そして…

二度目でもワクワク『dele』

3年前に毎週楽しみに見たドラマ『dele』が、今ネットフリックスで見られる。キャストもストーリーも素晴らしかったのだが、深夜帯でもあったからか、あまり話題にはならなかった(だが、のちにギャラクシー賞はじめ数々の受賞あり)。続編かスペシャルでま…

筋を通す男のカッコよさ!映画『浅草キッド』

柳楽優弥くんの熱演はもちろんだけれど、大泉洋さん演じる「師匠」が、なんとも粋で男らしくて、でもシャイで可愛らしくて、たまらなかった。 ビートたけしさんのブラックなユーモアも暴力的な映画もあまり得意ではなく、無名時代、浅草のストリップ劇場に出…

最も惹かれた人『光の指で触れよ』再び・・・

昨日あれだけ書いたのに、実は最も心惹かれた人物に触れていなかった。ユニコーニアの近くで、コミュニティには属さず一人で自給自足に近い暮らしをしているトーマスという人だ。 ある日、アユミはキノコとその友達であるオリヴィアを連れてユニコーニアの近…

求めていたものに出合った『光の指で触れよ』池澤夏樹著

ああ、私はこれを求めていたのだ!と思った。漠然と指向していたものが、はっきりと形をとってこの物語の中にあった。何十年か若い日に読んだら、きっと生き方を左右されたことだろう。 物語の中心となるのは「ぼく」の友人の天野家。大きな会社で、風力発電…

心地よい感動の青春物語『虹色の皿』拓未司著

王道の青春物語といえる作品だけれど、その王道ぶりが爽やかで気持ちよくさえ感じた。 主人公小西比呂は岐阜の高校を出て大阪の調理師専門学校に進み、卒業後は神戸のフレンチレストラン「シェ・ホンマ」に就職する。そこはフレンチを目指す料理人なら誰もが…

昔話と絡めた女性の半生『瓜子姫の艶文』坂東眞砂子著

伊勢松坂の遊女屋の伽羅丸は、間(あい)の山で拾われたみなしごだ。かすかにおっ母さんと暮らしていた頃の記憶があるが、切れ切れでおぼろ、今は木綿問屋の主亥右衛門(いえもん)の表の妻になることを夢見ている。 この遊女伽羅丸と亥右衛門の妻りくと、交…

こんなせつない愛の形も・・・『明日、世界がこのままだったら』行成薫著

市民館の新刊のコーナーにあった本。2021年9月30日発行とある。借りて読んでいることもあって、あまり新刊本には縁がないので、せめてこのコーナーの本はなるべく手に取るようにしている。 そんなわけで、新しい本ということ以外特に期待もなく読み始めたの…

有𠮷玉青著『車掌さんの恋』より「きせる姫」

電車をテーマにした5つの短編からなる『車掌さんの恋』。発行は2004年と、21世紀であることが意外な気がする。ピンクのはんなりした雰囲気の装丁も、のどかな感じのするタイトルも、もっと古い時代を思わせ、私など、昔バスに乗ると小さな帽子をちょっとお…

ちょっとした嘘さえ怖くなる『汚れた手をそこで拭かない』芦沢央著

手は、洗面所でしっかりきれいにしてからタオルを使うよう心がけている私には、訴求力の強いタイトルだったが、内容はだいぶ思っていたのとは違った。特に潔癖症の人や不潔恐怖の傾向のある人は出てこない。そもそも短編集によくある、収蔵作品のタイトルで…

資本主義経済の行きつく先?『悪貨』島田雅彦著

公園で暮らすホームレス、ある朝目覚めると足元にコンビニの袋が落ちており、その中には一万円札が200枚入っていた。 ホームレスは服装一式を買い、床屋で散髪し、町一番という店で寿司を食べるが、そのあと二人組の若者に残りの金の入った袋をひったくられ…

かく生きたい!と思う『影ぞ恋しき』葉室麟著

『影ぞ恋しき』は、以前『いのちなりけり』を読んだときに知った、著者の「いのち三部作」の完結編だ。そうして、葉室麟氏の遺作となってしまった。 hikikomoriobaba.hatenadiary.com 実は『花や散るらん』はまだ読んでいないのだけれど、前回市民館に行った…

思いがけない展開『笑うヤシュ・クック・モ』沢村凛著

ヤシュ・クック・モを知っている方は、相当なマヤ文明好きだろう。これは、マヤの王様の名前なのだそうだ。 遺跡から発見された、ヤシュ・クック・モをかたどったとされる香炉。 市民館の本棚でこの本を見つけ、タイトルや装丁から、てっきりのどかなお話だ…

北村薫さんの博覧強記ぶり全開!『謎のギャラリー』

以前、marcoさん(id:garadanikki)が紹介していらした北村薫さんの『謎のギャラリー』。marcoさんは実際の作品を北村さんが編まれた「特別室」の方から読まれ、あとから赤い本の方という順で、「これで正解だった」というふうに書いていらした。 粗忽者の私は…

胸のすく『下妻物語』

雨子さん(id:poolame)ちのざべすちゃんが紹介していた映画『下妻物語』が、ネットフリックスにあったので鑑賞した。 poolame.hatenablog.com 17年前の作品のようだけれど、深田恭子さん少しも変わっていない気がする。深田さんの子供時代を演じている福田麻…

男も女も潔く美しい『霧の橋』乙川優三郎著

1997年出版の作品。著者紹介には「国内外のホテルに勤務。現在は翻訳下請業に従事」とある。まだ乙川さんが専業作家になっていない頃の作品だ。前年にオール讀物新人賞を受賞し、本作では時代小説大賞を受賞している。 冒頭の章は陸奥国が舞台。一関藩三万石…

ほのぼのじんわり『愛しの座敷わらし』荻原浩著

食品メーカーに勤める高橋晃一は、突然地方への転勤を言い渡される。どうやら出世競争から外れたらしい。家庭を犠牲にして頑張ってきたのにとむなしくなり、これからはもっと人生を楽しんで生きようと一念発起、家族を説き伏せて、いや説き伏せ切れていない…

文句なしに犬が可愛い映画『ジューン&コピ』

ネットフリックスで視聴。初めてのインドネシア映画だ。 国際協力コスモス会や日本語教室で何人ものインドネシア人と交流してきたが、この映画の中心となる若夫婦は、インドネシアでどの程度の生活レベルなのだろうというのが気になった。登場する家が、日本…

不思議な恩田陸ワールド『きのうの世界』読後感は・・・

「もしもあなたが水無月橋を見に行きたいと思うのならば、M駅を出てすぐ、いったんそこで立ち止まることをお薦めする」と始まる本書、冒頭からいきなり著者の不可思議な世界に放り込まれてしまう。 単なる物語の読者ではなく、俯瞰と言うほどの高さでもなく…

今更ですが『マイ・フェア・レディ』

昨日、ネットフリックスのサイトを開くと、トップが『マイ・フェア・レディ』の紹介になっていた。そういえば、私はこの超有名な作品をまだ見たことがない。早速見ることにした。 休憩をはさんで(実際私のパソコンは途中で充電が切れてしまい、いったん終了)…

犬への愛があふれる『CALI K9:どんな犬でもしつけます』

『CALI K9』はネットフリックスオリジナルのドキュメンタリー番組。シーズン1を楽しく見ていたら、あっという間に終わってしまった。もっと見たい。ぜひシーズン2を作ってほしい。 カリフォルニア州オークランドにある犬の訓練センターCALI K9(Californi…

今年も見ている『すいか』

暑くなると、やっぱり見たくなってしまうドラマ『すいか』。2003年の夏ドラマなので、もう18年も前の作品だ。それでもまるで色あせない。ともさかりえさん演じる絆さんのファッションも、相変わらず素敵。 yonnbaba.hatenablog.com 舞台は、スリランカに行っ…

大和撫子と男装の麗人と激動の満州『俳風三麗花 草の花』三田完著

このところ敗戦時のソ連軍の登場する読書が続く。承知して読んだのは井上ひさし氏の『一週間』のみで、あとは偶然だっただけに、ちょっと因縁めいたものを感じる。 今回の作品も、ただ宇野亜喜良さんの装丁と、昭和初期という時代設定で美しい文章であること…

市井の一隅で静かに生きる人たちの力『泡』松家仁之著

このところ気になっている著者の最新刊。リクエストしていたものが届いたと市民館から連絡をもらい、受け取って一気に読んでしまった。 最初に読んだ『光の犬』は大作だったが、今回の『泡』は、二冊目に読んだ『沈むフランシス』と同じくらいの、200ページ…

平凡な人生を紡ぐ静かな物語の魅力『光の犬』松家仁之著

北海道東部の枝留(この地名は架空らしい)に暮らす添島家の、三代にわたる人々の物語。特別な人物も登場しないし、ドラマチックな出来事も起こらない。薄荷の会社の役員の祖父、その連れ合いで助産師として忙しく生きた祖母、その夫婦の一男三女の子供たち…

鯖猫長屋8巻まで読み進む

『ねこだまり』という猫にまつわるアンソロジーで出合った田牧大和さんの作品『鯖猫長屋 ふしぎ草紙』シリーズ、本日第8巻を読了した。昨年12月に出版された9巻もリクエストしてあったのだけれど、貸し出し中で残念ながらまだ手元に届いていない。 わけあ…

大女優ソフィア・ローレンと互角に渡り合う少年が魅力『これからの人生』

街中で、高齢の女性(ソフィア・ローレン)が少年にバッグをひったくられる。親の保護が得られない娼婦の子供たちの世話をして暮らす、マダム・ローザと呼ばれる女性だ。 少年はバッグの中身の品物が骨董として高く売れると思い店に持ち込むが、安物だと言っ…