土曜日夜のETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界 ~海外の知性が語る展望~」を見た。
番組の案内は
パンデミックとなった新型肺炎。都市の封鎖や大量死が連日報じられている今、人類は大きなチャレンジを突きつけられている。世界はどう変わるのか。人類は今後どこに向かうのか。歴史学、政治学、経済学の各分野で独自の思想を展開する世界のオピニオンリーダーたちに徹底的に尋ねていく緊急特番。【出演】ユヴァル・ノア・ハラリ,イアン・ブレマー,ジャック・アタリ,道傳愛子
となっている。
まずはアメリカから国際政治学者のイアン・ブレマー氏。10年近く前に『Gゼロ後の世界』という本を著し、指導者なき世界を予測していた。今回のコロナパンデミックは、その指導者なき世界が初めて迎えた危機で、世界各国がバラバラに危機を乗り越えようとしていて、このことは将来重大な影響を持つと言う。
コロナ後、アメリカと中国の対立は深まり、国と国や個人間の格差はさらに拡大し、経済的に耐える余力のある先進国は良いが、何も手を差し伸べなければ、貧困な国では苦しさから過激な方向に行き、何が起こるか分からない危険があると予測する。
9.11の時は、アメリカは一つになり人々は団結して、抱きしめ合い手を取り合って危機を乗り越えたが、今回は人々はそれができない。人は社会的な存在だから、そうした状況は非常につらい。ブレマー氏は唐突に「犬を飼うべき」と言い、聞き手の道傳さんはなにかの暗喩と受け取って意味を尋ねたが、「犬はいいですよ、癒されます」と、そのままだった。このクールな学者さえ、犬の癒しを必要とするほど苦しい時なのだなと、妙に納得してしまった。
二番目はイスラエルの歴史学者、『サピエンス全史』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。この危機は民主主義への挑戦だととらえる。次の2か月から3か月の間に、世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになると言う。
ハラリ氏は「監視」という言葉を何度も口にした。監視は必ず双方向でなくてはならない。政府は国民を監視するが、国民の方も政治を監視しなければいけない。特にこうした危機には、独裁政治が行われやすい(イスラエルでも議員の健康のためという大義名分で議会が閉じられようとした)ので、注意深く政治を見ていないといけない。
国民が政府を監視するためには、きちんとした教育をし、信頼できる情報を得て適切な判断ができる国民にする(感染蔓延を防ぐため、すべてのトイレに警備をつけ違反者を罰するより、感染症の教育をして自ら手を洗う国民を育てる方が、国にとっても有利)ことと、情報が透明で誰でもアクセスできることが大切。政府を権力につながる人だけでなく、国民すべてに奉仕させるために監視が必要だという氏の言葉には、政府を批判すると逆批判する人の多い今、胸がすく思いだった。
ハラリ氏が独裁政治についていった言葉。
・間違いを犯しても認めない、隠ぺいする。
・メディアをコントロールしているので、隠ぺいも簡単。
・そして間違いをさらに重ね、責任を他の人に転嫁する。
・ますます権力を強化し、さらに間違いを重ねていく。
安倍政権のことを言っているのかと思ってしまった。それだけすでに独裁化が進んでいるということだろう。政府が間違いを正そうとしない時、政府を抑制する別の権力が必要と言われたが、日本ではその別の権力も消滅しようとしている。
いま私たちにはたくさんの政治的な選択肢がある。ここでどんな選択をするかで、このパンデミック後の世界が変わる。のちに、それぞれが自分の中の悪を退治し、以前よりずっと強く団結した種になれた時期として位置づけられるかは、私たちの選択次第だと、希望の光を指し示した。
最後はフランスから、経済学者で思想家のジャック・アタリ氏。11年前、すでにパンデミックで世界が危機を迎える事態を予想していた。今回の危機は1929年の世界恐慌以降最悪の事態だと言う。
けれども、前の二人に比べ、アタリ氏の話は終始明るく前向きな雰囲気だった。恐怖を感じる時、人類は進歩する。ただ、不安要素は、人間は負の遺産を持ちたくないので、恐怖が除かれるとそれを忘れ、簡単に元に戻ってしまう。人類がいまそのような弱さを持たないよう願っていると言われた。
アタリ氏の言う「利他主義」に強く共感した。利他主義はすべてを犠牲にする聖人になることではなく、合理的利己主義である。自らがウイルスの感染の脅威にさらされないためには、他人の感染を防いだほうが良い。日本の「情けは人のためならず」の精神と同じだ。
協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきで、他者のために生きるという人間の本質に立ち返るべき。次世代の利益となるよう行動(投票する時も)するべきだという考え方はとても大切だ。いまこの国で、次世代のための政治を考えている政治家がどれだけいるか。次世代のために投票に行く国民がどれだけいるか・・・。
この危機を、「ポジティブな社会」「共感のサービス」の方向に変えるチャンスにしたいという言葉は、私の心にしみた。ポジティビズムと楽観主義は違う。ただ、「この試合は勝つよね」と眺めているのが楽観主義で、自分が試合に参加し、「うまくプレイできれば勝つぞ」と考えるのがポジティビズムだと言う。私も、試合に参加してうまくプレイできる、民主主義を勝たせるいちプレーヤーになりたいと思う。
偶然だろうけれど、ハラリ氏の後ろには馬の墨絵や「佛心」と書かれた掛け軸がかかり、アタリ氏の後ろには竜安寺だろうか石庭の額が飾られていた。世界で一番貧しい大統領と言われたホセ・ムヒカ氏を思わせる優しげなアタリ氏を番組の最後に持ってきたのは、この厳しい現実から目をそらさず考えさせる番組の、さりげない配慮だったような気がする。
利他主義という理想への転換こそが人類のサバイバルの鍵である byジャック・アタリ