あとは野となれ山となれ

こどもや動物、みんなが安心して暮らせる世界でありますように・・・

バラエティ豊か、猫にまつわるアンソロジー『ねこだまり』

女性作家ばかりの時代小説傑作選。

 

顔ぶれは、諸田玲子・田牧大和・折口真喜子・森川楓子・西條奈加、そしてトリを務める宮部みゆきの面々。ミステリー風あり、人情ばなしあり、怪談風あり・・・とバラエティに富んでいながら全体的なまとまりもよく、なおかつ一つひとつ読みごたえも十分だ。

 

お婆さまの猫  諸田玲子

思う人を心に秘めて同じ御先手組の与力に嫁いだ結寿(ゆず)。婚家には少々記憶が心もとなくなったお婆さまがいた。そのお婆さまが可愛がっていた猫がいなくなり、猫の足では行けそうもない遠い場所で見つかる。しかもそこの主は、スイカの種さえもったいないから吐き出さないというごうつくばりの旗本。外国の血が混じっているらしい珍しい猫を手放すわけがない。さてどうやってお婆さまのもとに取り戻すのか・・・。

 

包丁騒動  田牧大和

猫の絵ばかり描いている売れない絵描きの拾楽。彼の飼い猫サバは珍しいオスの三毛猫で、しかも不思議な力を持ち、彼の住む長屋で一番偉いとされている。

ある日同じ長屋の住人夫婦が、夫の仕事道具である包丁を持ち出しての大喧嘩を始める。近所の世話好きのおかみさんと拾楽が仲裁に乗り出すと、原因は夫の兄弟子が怪我で包丁が持てなくなったことにあった・・・。

心に沁みる人情噺。どうやらかつては盗っ人をしていたらしい主人公拾楽と、猫のサバが少々謎めいていて魅力的だ。「鯖猫長屋ふしぎ草紙」というシリーズものらしいので、ぜひとも拾楽とサバとの出会いや、拾楽を慕う娘おはまとの行く末を読みたい。

 

踊る猫  折口真喜子

蕪村と一回り以上年下の絵師主水(幼名岩次郎)の交流を描く。主水が何者かは、特別絵画好きでなくても早い段階で見当がつくと思うが、いちおうそれもこの話の妙味の一つのようなので伏せておく。まるで性格も画風も違う二人の、互いを尊敬し思いやる穏やかで温かな付き合いが心地よい。何度でも読み返したくなるような佳作。

 

おとき殺し  森川楓子

猫好きの歌川国芳のもとには、常にたくさんの猫がいる。一匹くらい増えてもよかろうと持ち込まれた黒猫は、殺された女のそばで心細そうにうずくまっていた猫だという。連れてきた親分は、もしかしたら猫が犯人の顔を見たかもしれないと言う。

国芳の女弟子のおひなは絵の才はからっきしだが、実は猫の言葉が分かるのだった。そうしてその黒猫やあちこちの猫たちから話を聞き出し、事件の真相を追っていく・・・。

 

猫神さま  西條奈加

孤児だった三治は、12歳の今は武家の長谷部家の厄介になっている。当主も兄上も持て余し気味の長谷部家の次男柾(まさき)について歩いていて、泣いているおのぶという少女と会う。繭玉屋で働いているという彼女は、その家の守り神のような猫神さまがなくなって、その下手人と疑われているという。父親が盗みを働いた咎人だからだと聞き、三治は自分の父親など人を殺めたのだと彼女を慰める・・・。

三治たちが猫神さまを探し出す謎解きと同時に、自分ではどうにもならない不幸な境遇にある弱い者たちの、温かな思いやりに心が慰められる。

 

だるま猫  宮部みゆき

幼少時に父親に暴力をふるわれ、両親が死んでからは親戚をたらい回しにされた文次。子供の頃見た勇壮な火消しに憧れ弟子入りするが、肝心な火事場におもむくと体はこわばり動けなくなってしまう。とても火消しにはなれず、今は六十になる角蔵の一膳飯屋の手伝いをしている。

夜ごと怖ろしい夢を見てうなされる文次に、ある日角蔵は自分も火消しだったのだと言い、自身が体験した不思議な話を語りだす・・・。

ホラーなので、あとは読んでのお楽しみ。

 

どれもハズレのない面白さだったが、私は『包丁騒動』の人情と、『踊る猫』の画家二人の交情に特に惹かれた。

 

 

f:id:yonnbaba:20200606154731j:plain