夜中の映画でまた掘り出し物。76歳のイアン・マッケランが、60代と93歳のシャーロック・ホームズを演じ分けている。
30年前に探偵業を退き、今は海辺の田舎町で静かに養蜂に楽しみを見出して暮らすホームズ。身の回りの世話はメイドのマンロー夫人がしているが、彼女は転職を画策している。しかし、一緒に暮らす彼女の聡明な息子ロジャーは、論理的で洞察力のあるホームズに心酔していて、ホームズが少しずつ書き進めている回想録も密かに愛読している。
ホームズが引退を決意したのは、ある男性から依頼された妻への調査が原因で、その調査の悲劇的な結末がホームズを打ちのめしたからだったのだが、現在のホームズは認知症が進み、細部を思い出せなくなっており、回想録も滞りがちだ。
日に日に頼りなくなっていく記憶に自分でももどかしさを感じ、何とかしたい思いから、認知症に効くという山椒を求めて、ウメザキ(真田広之)という日本人の依頼に応えて遠路日本に旅をする。ウメザキの依頼は自分と母を捨ててイギリスに留まった父に、ホームズがどんな助言を与えたのかというものだったが、すでにホームズはその記憶をなくしていた。
ホームズを慕い、回想録の続きを読むことや、ミツバチの飼育の仕方を教えてもらうことを求めるロジャーに触発されて、徐々に記憶を手繰り寄せていくホームズ。しかしその先には残酷な事実が待っていた・・・。
ワトソンが書いて大人気になったホームズの物語は、彼の脚色がたくさん入っていて、世間の抱いているホームズ像は間違っていると嘆く老ホームズがおかしい。そしてあの聡明なホームズも老いには勝てず、毎日顔を合わす少年に呼び掛けようとして、名前が思い出せず戸惑うさまに胸を打たれる。
自分を深く責め、引退するに至らしめた事件は、彼がちょっと信念を曲げれば防ぐことができたかもしれない。おそらくそのことに気が付いたので、終盤で、保留にしていたウメザキへの返事の手紙をしたためる時に、ホームズは優しい嘘(日本語で方便と言う)を書いたのだと思う。
老いることへの戸惑いや寂しさ、そしてそれを救うものが、美しいイギリスの田園風景の中で描かれる。ウメザキの登場する日本部分の描写が、実に怪しげでインチキくさい日本になっているのは、ご愛嬌と笑って許すとする(真田広之さんも指摘するわけにはいかなかったのだろう)。

ロジャー少年とホームズ (eiga.comのサイトより)

ホームズを打ちのめした「最後の事件」 (gaga.ne.jpのサイトより)