あとは野となれ山となれ

たいせつなものは目に見えないんだよ

『ミリオンダラーガール』よ永遠に!(核心に触れます)

昨年放送された『MIU404』はシリーズのどの回もやはり傑作ぞろいだったと、正月の一挙再放送を見直しながら改めて痛感した。なかでも、三村里江さんがゲスト出演した第4回は圧巻だった。

 

このドラマは、警視庁の働き方改革の一環で、刑事部・機動捜査隊(通称:機捜)の部隊が3部制から4部制に変更となり、臨時部隊として新設された“第4機捜”が舞台である。その4機捜で桔梗隊長(麻生久美子)のもとバディを組むのが志摩(星野源)と伊吹(綾野剛)。寡黙で冷静な志摩とおちゃめで熱血漢の伊吹、対照的な二人がぶつかりながら絶妙のバディぶりを見せる。

 

第4話は拳銃使用による殺人未遂事件で始まる。被害者は元ホステスの青池透子(美村里江)で、加害者の男性も含め現場から立ち去った。

 

通報を受けた伊吹と志摩は、透子が駆け込んだ付近の薬局店へ急行する。店主の証言では、透子は店内で銃創の応急処置をした後、大金の入ったスーツケースを持って姿を消したという。

 

その青池透子はホステス時代に客に連れられて行った裏カジノで罠にはまり、多額の借金を抱え風俗に沈む。借金を少しでも早く返したいと、カジノ店でも働き、運悪く勤務中に警察の手入れに遭遇して逮捕され、前科がついていた。

 

そのあとはなかなか思うような職に就けず、やっと正社員で経理の仕事にありつけたと思ったら、その会社は詐欺グループが不正な携帯電話を手に入れるために、会社ごと買い取られた暴力団フロント企業だった。

 

毎日詐欺などで得られた大金を洗浄する役目をしながら、透子はこの世の理不尽に憤る。質素なアパートで、「半額」のシールの貼られた総菜をおかずに食事する透子の部屋のシーンで彼女の声が流れる。「献金もらった政治家も、賄賂をもらった役人も起訴されないんだって。私なんて手取り14万円で働いてるのに・・・」。

 

「どうせ汚いお金だ。汚い私が使って何が悪い。引き出しいっぱいにたまったらどこに行こう。どこならきれいに生きられる?」SNSの透子のつぶやきだ。

 

透子は会社の金の着服を始める。会社の事務机の引き出しに隠したその金はいつしか1億円になり、とうとうそれを持って新天地へと飛び出した透子は、逃がすまいとする組員に撃たれたのだ。

 

伊吹達がこの携帯ショップにたどり着き透子のことを聞くと、同僚の女性社員は、お昼は持ってきたお弁当を食べ、残りの時間はいつも編み物をしている地味な人だったと言う。

 

薬局での応急手当てののち、透子はネットで購入したタイ行きのチケットの便に乗るためバスの人となるが、そのバスには彼女を追う組員も乗っていた。バスを追尾する志摩と伊吹のメロンパン号(第1話で壮絶なカーチェイスをし、本来の二人の車は廃車処分になった)。

 

志摩と伊吹の機転と決死の対応でバスの乗客は誰一人けがをすることもなく組員は捕まるが、伊吹が強い興味を抱き話をしたがっていた青池透子は、バスの座席ですでに息絶えていた。そして1億円が入っているはずの彼女のスーツケースはカラだった。いったい1億円はどこへ?

 

彼らは彼女のSNSのつぶやきや、ネット上のマップデータからある宝石店に透子がたびたび通っていたことを突き止める。そこに行ってみると、はたして彼女は2粒で約1億円のルビーを購入していた。

 

空港へのバスの中で、透子は最後のつぶやきを投稿していた。

もう死ぬみたいだ

つまらない人生

誰が決めたの

弱くてちっぽけな女の子

逃げられない

どうしようもない

私が助ける 

最後に一つだけ

 

ルビーは青池透子が編んだウサギの編みぐるみの目となり、イギリスにある「ガールズインターナショナル」の本部に送られていた。透子の逃走経路の途中に、そのガールズインターナショナルの看板があった。発展途上国の少女と思われる女の子の顔の横に、「逃げられない 何もできない 少女たちに」というコピー。

 

 

このストーリーに、桔梗隊長と、やくざの悪事の内部告発者となったばかりに命を狙われることになり、桔梗隊長の家に匿われている女性や、隊長の息子の話がはさまれ、志摩と伊吹の思わずクスリとくるやり取りや、機捜の仲間と次第に息が合っていく具合などが、見事に織り込まれる。

 

やはり野木亜紀子さんの、現代社会の問題を掬い上げる手腕はすばらしい。『逃げ恥』のお正月スペシャルは、時間の制約もあってか、少々問題詰め込みすぎで苦しかったという感想もあったようだが(私自身は非常に満足度は高かったが)、『アンナチュラル』やこの『MIU404』は、ちゃんとエンタメとして視聴者を楽しませながら、社会の抱える問題を提示し考えさせ、ピリッと政治を風刺してもいる。

 

なにより弱い立場の存在からの視点が良い。もちろん、世の中にはどうしようもなく邪悪な人間もいるかもしれないが、大半の犯罪者は貧しさや逆境からやむなく生まれる。それで罪が許されるわけではないが、社会はそこから学んで、次の犯罪者を生まない努力が必要だ。『アンナチュラル』や『MIU404』には、野木さんのそうした叫びが聞こえるような気がする。

 

 

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圧倒的な存在感だった三村里江さん。