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あっという間の『祝祭と予感』恩田陸著

市民館にリクエストして待つこと1か月余り。恩田陸さんの『祝祭と予感』が届いているという連絡がやっと来て、昨日受け取りに行ってきた。

 

蜜蜂と遠雷』が500ページを超えるうえに二段組の大変なボリュームだったのと対照的に、こちらは186ページと、芥川賞本くらいの薄さで、ページの上下左右の余白も多く、おそらく文字量では本編の十分の一以下ではないかと感じる。

 

「本編」と書いたように、これは『蜜蜂と遠雷』の姉妹編というか、かの作品の登場人物たちの前日譚や後日譚を綴った物語だ。主要人物の中では、映画では人気の高い松坂桃李さんが演じてファンも多いと思われる、サラリーマンピアニストの明石だけが登場せず、ここがちょっと寂しいところか。

 

亜夜とマサルと風間塵のコンクール後のある日を描いた「祝祭と掃苔」、審査員だったナサニエルと三枝三枝子の出会いの物語「獅子と芍薬」、コンクールの課題曲「春と修羅」の作曲者菱沼と、その教え子の交流「袈裟と鞦韆(ブランコ)」、マサルナサニエルに師事することになった経緯を語る「竪琴と葦笛」、亜夜の親友奏(かなで)が自分のために運命づけられたかのようなヴィオラと出合うまでを描いた「鈴蘭と階段」、風間塵とホフマンの物語「伝説と予感」の6編からなる。

 

どれもあまり私たちの知らない音楽の一面や、その音楽に魅入られた人たちの心理などが描かれていて興味深い。なかでも、なぜあえてこの人を取り上げたのかと不思議に思えた、本編ではあまり印象に残っていない菱沼の物語「袈裟と鞦韆」が非常に心に響いた。

 

もちろん宮沢賢治も効果的に使われているのだけれど、ここで初めて出会う小山内健次という菱沼の教え子が、読む者の心に深く入り込んでくる。ほんの少し登場するだけの彼の家族もまた良い。この一遍を読むだけでも、この本を手にした価値はあったと思える。

 

 

昨年暮れに借りた本を読みあぐねて、年明けの返却日に慌てて返しに行ったきり、今年になってから本を借りずにいた。家にある本を読む気にもなれず、テレビやネットフリックスばかりで過ごしていた。リクエスト本の『祝祭と予感』で幕を開けた今年の読書、これからどんな作品と出合うことになるだろう。

 

 

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