いかにも幸せそうな題名、明るい装丁、そして冒頭ののどかな描写で、すっかりほのぼのしたお話だと思って借りた。
そうしたら、思いがけない展開を見せた。ある一つの家庭の話だ。祖母と、その祖母がいまだに溺愛しているのであろう父親と、その男の若き日の美しい顔に一目ぼれした母親と、三女一男の子供の、7人家族の約1年間の物語が、三女ミキの視点で語られる。
一見仲も良くのどかそうな家族の様子だが、やがてこの家庭が様々な問題をはらんでいることが明らかになってくる。まず、父親は失業中である。祖母はそんな息子に文句も言わず、せがまれればパチンコや酒のための小遣いを与えている。
長女で短大生のナナコは家を出て一人暮らしをしているが、親には内緒で、どうやら頼りない男性と付き合っている。父親の美形の遺伝子を受け継いだ二女のマミは、自分の臭いが異常に気になったり、食事は味噌汁しか食べようとしないし、どうも精神的に不安定そうだ。
主人公である三女のミキは年齢より大人びていてごくまともそうなのだが、クラスの中でなぜかだんだんはじかれていく。ミキの年子の弟源五郎は母親の知性を受け継いだのか成績は優秀だが、体も小さく少々弱々しい。
こうしてミキのクラスのスクールカースト(この言葉自体は出てこないが)の様子や、家庭や長姉の周辺が描かれ、事態は少しずつ緊迫の度を増していく。
それでも挫折せず読み進められたのは、ひとえに中学2年生のミキの落ち着きぶりが信頼できたからだろうか。また、ドラマチックなヒーローは出てこないが、彼女を支える存在も、地味ながら信じられる気がした。
登場人物の多くは、実際にもこんな人はいそうだなと思える、普通の人たちだ。ちょっと弱い部分があったり、周囲に流されてしまったり、直した方がいいと分かっていてもなんとなくズルズルと過ごしてしまったり・・・。
そうしたものが重なり合い、ふとしたものが引き金になって、時にとんでもない事態に至ったりする。物語は悲劇にはならず、平穏な家庭に収束する。もう冒頭ののどかさに完全に戻ることはないのだろうけれど、ごまかさないでぶつかり合っただけ、この家族の未来は信じられるように思う。
いじめも家庭の問題も実際には非常に難しく、物語のようにうまく収まるものではないかもしれない。けれども、どちらの問題についても、この作品に提示されたような対処は重要な意味を持つだろう。誰もが、逃げずに立ち向かえるというものではないだろうけれども。
それにしても、ミキの級友桜井君の言葉、
「おれ、経験してみてやっと分かったよ。目つけられたら最後、うまくやれなんて悠長なこと言ってらんねえ。大人がこんなことしたら犯罪だから、すぐ警察が動くのに、おれたちゃ野放し状態だろう。
学校に言ったって、どうせらち明かねえし、もみ消されたり、形だけの仲直りさせられるのが落ちだろう。ガキだと思ってんだ。そんであとでまた、ボコボコにされてさ。テメー、ちくったなって。」
「大人には警察がついているのに、おれたちにゃ味方は誰もいねえ」
この、なんという重さ!「いじめ」などという半端な言葉でごまかしていないで、いい加減、大人は本気でこの問題に向かい合わなければいけないのではないだろうか。