街中で、高齢の女性(ソフィア・ローレン)が少年にバッグをひったくられる。親の保護が得られない娼婦の子供たちの世話をして暮らす、マダム・ローザと呼ばれる女性だ。
少年はバッグの中身の品物が骨董として高く売れると思い店に持ち込むが、安物だと言って引き取ってもらえず、世話になっている医師コーエンの知るところとなり、ローザに謝りに行くことになる。
少年はセネガル出身の12歳のモモで、母親は病ですでになく、コーエン医師はモモの面倒を見てくれるようローザに頼む。手いっぱいで無理だと断るローザに、コーエンは報酬を引き上げることで何とか引き受けさせる。
こうしてヨシフとバブーという2人の子供の世話をするローザのもとで、モモもいっしょに暮らすことになるが、モモはヨシフともぶつかり、ローザにも反抗的だ。
いじめっ子の首をペンで突き刺して学校を退学になったモモには、時間がたっぷりある。ローザは知り合いの雑貨店主に週に何日かでも働かせてくれと頼む。この店主は趣味でアンティークの絨毯の修繕をしており、しぶしぶながらそれを手伝うようになったモモに、君は腕が良いとほめ、反抗的なモモに優しく接する。
ローザに言われて雑貨店で働きながらも、モモは彼女に隠れてヤクの売人もして頭角を現し、そうした世界の大人たちに重宝がられるが、ライオンの幻を見るなどして、心は常に満たされない。
そうしたところに、一緒に暮らすヨシフのもとに母親が迎えに来て、ママと共にローザのもとを去っていく姿を見て、母親が死んでしまっている自分には永遠にそんな日は来ないのだとモモは深い悲しみに沈む。
傷つきやすい心を隠し、案じてくれる大人たちには強がって反抗的態度をとる、世界中で一人ぽっちと言わんばかりの孤独な目をした、モモを演じる黒人の少年が素晴らしい。
ローザに言われて皿洗いを手伝っているとき、モモはローザの腕の数字の入れ墨に気付き不思議に思う。ローザはモモに教えなかったが、それは彼女が強制収容所に入れられた時のものだった。強く堂々と生きているように見えるローザだが、心にも体にも傷を負っているようだ。
ローザに「私は病院で死ぬのだけは絶対に嫌だ。あなたは強い子だと思うからそれをあなたに頼んでおく」とモモは言われる。「医者は患者を利用する。かつて私は経験した」とローザは言った。
ある日ローザは倒れ、バブーのママローラが呼んだ救急車で病院に運ばれる。その後ローラはバブーを連れて父親に会う旅に出かけてしまい、モモは家に一人残される。そしてローザとの約束を守らなければと思い、夜、一人で病院に忍び込みローザを家の地下室に連れ帰る。その地下室は、以前からローザが一番心が安らぐと言っていた、彼女とモモだけが知る秘密の場所だった・・・。
1977年にも映画化されているようだが、これは2020年の製作で、監督はソフィア・ローレンの息子さんだと言う。ネットフリックスでの配信。撮影時は85歳だろうか、堂々たるソフィア・ローレンはさすがと言うしかない。やり手の娼婦だったことを思わせる長いつけまつげの厚化粧の前半も圧巻の老女ぶりだけれど、病院に運ばれてからのスッピンも年齢なりの自然な美しさで素晴らしい。
そしてそれ以上に、大女優に勝るとも劣らないモモを演じる少年の存在感の素晴らしさが大きな魅力だ。反抗と孤独。悔いと改心。悲しみと祈り。澄んだ瞳にさまざまな色を見せてくれる。
それぞれ重い荷物や深い傷を負った人々。人生は過酷で人は弱い存在だけれど、人と人がつながったとき思いがけない強さが得られたり、喜びが生まれたりする。しみじみと、そんな「これからの人生」が、大変だろうけどまんざらでもないかなと思わせてくれる、心にしみる作品だった。