あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

全日本国民の謝罪が欲しい・・・NHKドラマ『半径5メートル』

本放送より遅い再放送を、さらに録画で見ている私はまだ最終回を見ていないが、本放送ではすでにこの25日に放送を終了している、NHKのドラマ『半径5メートル』。『いまここにある危機と・・・』と同じように、毎回現代社会へ鋭く切り込んだテーマを扱っている。

 

とりわけ第8回の「野良犬は野垂れ死ぬしかないのか?」は、見ている者の心に深く刺さるものだった。

 

女性週刊誌『女性ライフ』で最初は芸能ゴシップを追いかける1折班にいたが、失敗をしたため「半径5メートル」の関心事を扱う2折班に異動させられたヒロイン前田風未香(芳根京子)は、今回就職氷河期世代のその後を記事にしようとしている。

 

その世代でSNSインフルエンサーでもある「野良犬」さん(渡辺真起子)に連絡を取り、彼女の支援をしている弁護士の事務所で、先輩記者の宝子(永作博美)とともにインタビューをすると、「野良犬」さんの口から出たのは「全日本国民に謝ってほしい。私たちを捨て駒にして回ってる世の中でぬくぬくと生きている人たち全員土下座させたい」という激しい言葉だった。

 

その言葉にたじろいだ風未香は、かつて自分がけがで1か月学校を休んで学習についていけなくなった時に助けてくれた学習塾の先生(須藤理彩)のように、同じ氷河期世代でも、声高に文句を言うでもなく理不尽な労働環境に耐えている人たちの声をもっと聴きたいと思い、かつて問題になった派遣切りのニュースを調べる。

 

検索サイトで「派遣先企業の業績悪化で大量の派遣切り」としてヒットするのがパトワという人材派遣会社だった。「パトワ」、もう誰でもいやでも、あの悪名高い〇中〇蔵氏のアノ会社を思い浮かべることだろう。

 

恩人の学習塾の先生も、その会社の派遣をしていて派遣切りに合っていた。話を聞きたいと自分の名刺を差し出した風未香に先生は微妙な表情を見せるが、無邪気な風未香は気づかない。大きな会社の立派な名刺を持つかつての教え子。自分は名刺もなくアルバイトを転々とする身・・・。

 

時代のせいばかりではなく自分もいけないんだと言う先生に、風未香はこういう問題に熱心な弁護士を知っているから相談しようと持ち掛ける。結局約束の日に先生は弁護士事務所に現れない。いっぽう、風未香のまとめたインタビュー記事のゲラを見た「野良犬」さんは、一番肝心な全国民に謝罪を求める言葉を抜かれ、もうこの依頼は断ると電話をしてくる。

 

あちらもこちらもうまく進まず悩む風未香への宝子の対し方が、いつもながら素晴らしい。話の最中に突然風未香の足を踏んづけ、「痛い、痛い!」と声を上げる彼女に、痛いって声を上げてるのに、その時黙れって言われて黙っていられる?と問う。そしてさらに宝子は、野良犬さんの地元に行って同級生たちに話を聞いてきたら、誰もが当時の野良犬さんはとても控えめなおとなしい人だったと言ったという。

 

宝子が取材してきた高校時代の野良犬さんの話と合わせて、なぜ内気女子が野良犬となって吠えなければいけなかったのか、あらためて書いた風未香の記事は、今日このブログを書くために二度目に見ても心を揺さぶるものだった。

 

 

『表参道高校合唱部!』(あまり視聴率は良くなかったが名作だった)の頃は、可愛いけれどまだあか抜けない女の子だった芳根京子さんは、すっかり美しく花盛りの女優さんに成長し大活躍。今期もこのドラマのほかに『コントが始まる』(名作だった)にも出演していた。

 

永作博美さんの宝子さんは、かつて自分もスクープで人の人生を狂わせてしまった(5話と6話の「黒いサンタクロース」で描かれる)苦い経験を持つ魅力的なキャラクター。加えて、古着かと思う奇抜なファッションも毎回非常に楽しみ。

 

そしてそして、男性俳優さんの女装など珍しくなくなった昨今だけれど、北村有起哉さんのトランスジェンダー役が素晴らしい。演じている北村さんもいいが、普通の女優さんが演じているようにさらっと扱っている演出の力も・・・。エンタメの世界はここまで来たのに政治があまりに遅れている。まあ、おじさん(なかには女性のおじさんも)、おじいさんばかりだからね。

 

 

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宝子さんのファッション!

 

 

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この二折のオフィスがまたいい雰囲気。