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思いがけない展開『笑うヤシュ・クック・モ』沢村凛著

ヤシュ・クック・モを知っている方は、相当なマヤ文明好きだろう。これは、マヤの王様の名前なのだそうだ。

 

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遺跡から発見された、ヤシュ・クック・モをかたどったとされる香炉。

 

市民館の本棚でこの本を見つけ、タイトルや装丁から、てっきりのどかなお話だと思って借りてきた。ところが読んでみるとこれが、ミステリーだった。

 

期待とは違ったけれども、主人公が高等遊民のような生き方をしている恬淡とした人物であるゆえか、あるいは物語の半分を過ぎても死者が出てこない展開ゆえか、生臭くも陰惨でもなく、謎解きの面白さでどんどん引き込まれた。

 

主人公戸樫皓雅はこれまであまり人付き合いをしていなかったが、F大学時代の友人4人と、卒業10周年の同窓会に初めて参加する。ひょんなことから5人でtotoくじをすることになり、一人2,3試合ずつ予想するのだが、なんとこれが全員的中。一等賞金は6千7百万円ほどだと言う。

 

ところが、メンバーの1人が実家の親に預けておいたくじは、なぜか予想の数字が一つだけ違っていた。同窓会の時に記念の写真を撮った「写ルンです」という使い捨てカメラで、予想を書き込んだ用紙を撮影しておいたので、それが証拠になると勇んで現像してみると、なんと出来上がった写真は全くの他人のものにすり替わっていた!

 

こうして、totoくじ一等の証拠となるはずの写真の行方を追う謎解きが始まる。それぞれ仕事のある4人に代わって、当選金には興味のない皓雅が、暇なのだからということで、関係者と思われる人物「赤の王妃」が現れる場所を張り込んだりと、深くかかわっていく。

 

このすり替わったカメラにかかわる人物の、携帯電話の待ち受け画像がヤシュ・クック・モの香炉の写真だったことで、物語はマヤ文明と密接に絡んで展開していく。

 

物語の面白さは、このマヤ文明の蘊蓄と、人生を投げているように見える主人公の背景などにある。そして主人公の側から見えていた友人たちの姿が、物語後半になってそれぞれの事情が分かってくると、いくぶん違った像を結ぶようになる。単純な私など、いつの間にか主人公に感情移入して、特定の人物を不快に感じていたりしたのだが、人間は多面的であるという当たり前のことに、あらためて気づかされた。

 

結末は少々悲しく、またその後の消息が気になる人物もいるけれど、それは自分の脳内で、好きなように物語を補完することにする。

 

 

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