あまりにも美しい天気に、部屋の中ばかりで過ごしてはもったいないような気持になって、昼食後、近くのなまず池公園に本を持って出かけた。
いい塩梅に木陰になっているベンチで本を開く。憂き世を忘れるよう、ちくま文学の森の第二巻『心洗われる話』を選んできた。
読み始めてしばらくすると、公園内を歩いてきた男性が私の座っているベンチに腰を下ろし、話しかけてきた。どんな本を読んでいるかに始まって、その時私が読んでいたのは有島武郎の作品だったのだが、俳優の森雅之が有島の息子だったことや、目次の中にオー・ヘンリーの『最後の一葉』を見つけてその話をしたり、トルストイの『戦争と平和』は読んだかなど、次から次へと話す。
私は簡単に短い返事をし続けたが、男性は楽しそうにしばらく話し込んでから立ち上がって去った。再び本を開いて読み始めていると、また戻ってきてベンチに座り、「奥さんは愛大のオープン・カレッジで教えていませんでしたか」と聞かれる。私の顔はありふれているのか、何処どこにいませんでしたかと言われることが多い。それにしても、オープン・カレッジで学ぼうかと思ったことはあるが、教えるなどとんでもないもいいところだ。
名前や自分の家の場所を告げ、ここにはよく来るのかと聞いて去って行った。
秋の日が早くも傾きかけ、お陰で本はあまり読めずに戻ってきた。