あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

瞳キラキラな男たち(改題)

元々2021年5月に放送された番組の再放送分を録画。それをさらに1か月ほど寝かせた挙句に見たのだけれど、期待した以上に面白かった。ETV特集『激変する西之島~太古の地球に出会う旅~』だ。

 

西之島は東京都心から1000キロ離れた無人の孤島。小笠原諸島の父島からも130キロ離れ、有史以来何度も噴火している火山島だ。

 

西之島の周辺は太古の地球。地球上の大陸はどうやって生まれたのか、その太古を覗くことのできる窓と言える、研究者にはたまらない魅力のある島のようだ。そこに調査に向かうのは、火山学者の田村芳彦さん、生物学者の川上和人さんを中心とした人たち。

 

2015年 初調査時は噴火中で、気象庁によって島から4キロ以内に船が近づくことが禁じられていた。田村さんは、「僕らの宝島が目の前に見えているのに、近づけない」と悔しがる。

 

代わりに、無人ヘリでクレーンゲームのごとく溶岩を採取する。生まれたての大地では800度の溶岩が海に入り、水蒸気が上がっている。頂上からは灰色の噴煙。島からの熱で無人ヘリのエンジンの冷却水の温度が90度になりアラーム音がする。沸騰寸前。溶岩採取は出来るのか?

 

ギリギリの危機を乗り越え、無事ヘリは船まで戻って来たが、今度は風が強く着陸させるのが難しい。ここまで来て宝を海に捨てるなんて・・・。しかしなんとか着陸させ、めでたく岩石も採取できていた。岩石は安山岩だった。

 

2019年には噴火が止まり、やっと上陸のチャンスが訪れるが、島に近づくと白い煙が上がっている。有毒ガスなら上陸不可だ。しかし幸いにもどうやらそうではないらしく、上陸許可が出て、昆虫学者や植物学者たちがゴムボートで上陸。

 

上陸すると、ウエットスーツを脱ぎすべて新品を身につける。外来生物を持ち込まないために細心の注意を払う。

 

溶岩の原。足元の岩は尖っていて、触れるとガラスのように鋭利で切れやすい。生物のいない世界。西之島調査のだいご味だと言う。どんな生物がまず入って来て生態系ができていくのか・・・。

 

と、鳥がいた。そこは、旧西之島だった部分。かつて鳥たちの楽園だった。新たに積もった溶岩に覆われ、今はわずかな面積が残るのみだが、カツオドリの雛がいる。オナガミズナギドリの雛も地中の巣に。アオツラカツオドリは抱卵していた。生物の逞しさ。

 

旧島以外の部分をドローンで探索すると、新しい溶岩の上でもカツオドリが子育てをしている。乾燥と暑さで命を落としたひなの死体は15以上見つかる。その死体の下に別の命。カツオブシムシ、ハサミムシ。旧島にいた命が生き延びていたのだ。

 

そしてさらに彼らが驚いたのは、土の発見。植物がないのに土ができ始めていた。溶岩が砕けた砂ではない。土は生き物の土台。興味深い発見だと言う。トビムシがいる。植物がないといないはずの土壌動物だ。鳥によって運ばれたらしい。植物に代わる有機物を食べているらしい。

 

それは、鳥の死体をカツオブシムシが食べ、それをさらにトビムシが食べ、そのフンで有機物が活発になり土が生まれたのではないかと推測する。植物の種子が来たら耐えられそうな環境がすでにでき始めていると、研究者は声を弾ませていた。

 

そこに、2020年新たな噴火。大陸誕生の次の段階に入った可能性もあると、新たな期待を抱いて、噴火が収まるとすぐ調査に入る。

 

島はすっかり様子が変わっていた。高さは90メートル高くなり体積は6倍、巨大な火口ができていた。その周りに広がる大地。表面の様相も一変した。ごつごつした溶岩からのっぺりした原に。

 

再び表面の物質の採取をする。改造した掃除機をドローンにぶら下げ、表面をひっかいて吸い込み採取する。火山灰だった。噴出した溶岩は最大5メートルもの厚さに積もり、その上を最後の噴出物の火山灰が覆っていた。

 

今回の大爆発を起こしたものを調べるため、水深900メートルの海底から噴出物を採取する。規模が大きかったため、今回の噴出物は島を飛び越えて大半が海に沈んだからだ。

 

海底から採取できたものは、細長くでこぼこしたスコリア。今までの噴火よりもさらに深いところでできたものだと言う。深いところのマグマが上昇して浅い所に残っていた安山岩の溶岩を押し出し、最後にその深い部分にあったものを一気に噴出したらしい。40億年前の地球上の絶海の孤島でも同じことが起きていたのではないかと田村さんは言う。

 

一方生物学者たちは、旧島部分はほとんど火山灰に埋まり、表面温度は部分的に180度もあり、裂け目からは白い煙のあがる島の様子に、これはちょっと鳥たちに生きててくれというのは酷な話だと考える。

 

しかし、ドローン映像は何か生物をとらえた。なんと、アオツラカツオドリが抱卵していた。攪乱された環境に適応して繁殖していたのだ。今回44羽を確認。本来生物というのは、これほど環境に適応して生き抜く強さを持っていると言う。

 

西之島の生物相は一回ゼロに戻ってしまったが、ゼロの状態を記録するのはとても価値がある。これからどんな変化が起きるのか見守っていきたいと言う。

 

なかなか興味深く面白いドキュメンタリーだったが、一番私の印象に残ったのは、西之島に向かう船の上で、少年のように目をキラキラ輝かす男たちだった。好きでたまらないものを追求するというのは、幸せなことなのだなとしみじみ思う。

 

 

カルト宗教の応援を借りてまで政治家になりたい人たちは、どんな時にあんなふうに目をキラキラさせるのだろう。いや、そもそも、あんなにきれいな目を持っているだろうか。