あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

こんな刑事さんがいて欲しい『刑事の怒り』薬丸岳著

テレビドラマでは、椎名桔平さんが演じた夏目刑事が活躍する物語だ。夏目には、犯罪によって植物状態にされてしまった娘絵美がいる。妻の美奈代が、奇跡のような回復を願って、付きっきりで世話をしている。

 

そんな辛い私生活を背負った刑事夏目が、持ち前の繊細な嗅覚で事件の細部にひっかりを感じて真相を解明してく連作短編集。本作はこのシリーズの第4作で、現在の所最新作のようだ。私はこのシリーズの第1作『刑事のまなざし』が、変形性股関節症の手術で入院した病院の院内図書にたまたまあり読んでいたが、この作品から読んでも何ら差支えはないと思う。

 

年金でつつましく暮らす母と、出戻った一人娘を扱った「黄昏」。男たちの性欲の犠牲となった女たちが、たまたま出会ったことから生まれる悲劇を描いた「生贄」。厳しい状況に置かれている外国人技能実習生や留学生を描いた「異邦人」。植物状態で眠る人とその周囲の人たちの想いを描く「刑事の怒り」の4編。

 

どの作品も罪は罪でもちろん許せることではないのだけれど、その罪を犯すに至ってしまう人間の悲しみや辛さをこまやかに掬い取っているため、胸を締め付けられる。

 

とりわけ、現代の日本で暮らす外国人労働者の人たちの過酷な状況を描いた「異邦人」は、実際にそのような人たちの犯す事件もニュースで見聞きするし、またしょっちゅう入管などでの非人道的な扱いもSNSなどを通じて知らされるので、フィクションとして流せない苦しさを覚える。今こんなことをして平気でいると、何十年かのちに、私たちの孫たちの世代が、東南アジアで逆の立場にならないとも限らないのにと思う。

 

それにしても思うのは、なんと貧しい国になってしまったことかということだ。この作品は2018年の出版なのでまだコロナ以前だが、その後の4年でますます状況は悪くなっていることだろう。

 

主人公の夏目刑事と相棒を組む女性刑事が、やはり過去に性的被害に遭っているらしく、検察事務官を経て刑事になったという変わり種である上に、取り付く島もないような実に愛想のないキャラクターではあるが、上司や同僚との人間関係は総じて良好で、テレビドラマの刑事ものによくあるような、部署ごとの反目や上司の無理解や圧力などといった不快な要素がなく気持ちよく読めた。

 

愛と信頼で結ばれた夏目刑事夫妻の努力が報われて、愛娘の絵美ちゃんの回復する日を祈りたい。

 

 

 

 

すっかり肌寒くなって、羊ちゃんのブローチの季節到来!

 

上の写真はちょっとピンボケなので・・・。乗っているのは500円玉。