あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

『エルピス』斎藤のセリフの緊迫感を消したもの

よほどリアルタイムで見ようかと思ったけれど、やはりCМがうっとうしいと思い昨夜はいつも通りに寝た。

 

そして、今朝はまず『エルピス』の最終回を見なければ!と、朝食や身支度が終わるとすぐテレビの前に座った。

 

 

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シリーズの中盤の物語の進展が遅く、最終回の1時間でどうまとめるのかと案じたが、結構うまくまとまったように思う。瑛太さんの出演シーンがなかったことは少々残念だし、大門副総理が失脚するところまで見届けて留飲を下げたかったとは思うが、あのあと、ジャーナリストの笹岡さんたちが追い詰めてくれるという含みが感じられた。

 

ただ、一番の緊迫シーンであり見せ場でもあった、「ニュース8」の本番前のスタジオでの浅川(長澤まさみ)と斎藤(鈴木亮平)の対決シーンで、現実世界のあまりのひどさが、肝心な斎藤のセリフから重みや凄みを失わせてしまったことが非常に残念だと思った。

 

斎藤は言った。「国の副総理大臣が強姦事件をもみ消し、被害者が自殺した。君が今夜そのニュースを報じれば望み通り大門は失脚する。しかしことはそれで終わらない。政界全体にもまた最大規模の激震が走る。内閣総辞職どころか政権交代もありうる。今これほど世界情勢が緊迫している状況で、そんな事態に陥ることがどれほど危ういことか。国政も司法も混乱し、国際的信用も失われ株も暴落するだろう・・・」

 

ここで本来なら、ドラマの中の浅川も見ている私たちも戦慄するところなのだろうが、残念ながら私たちは知ってしまっている。副総理どころか総理大臣が強姦事件をもみ消したことを。

 

被害者は自殺こそしていないけれど、それに匹敵するほどの苦しみを抱えながら相手を告発し、そのことによってさらにネット上で杉田水脈政務官(本日やっと辞表を提出したそうなので「元政務官」か)を始めとする心ない人々から罵詈雑言を投げつけられ、身も心もずたずたになる経験をしている。

 

この強姦事件のもみ消しだけではなく、首相の罪を隠すために嘘を強要された公務員が自殺し、カルト教団の広告塔まで務めていた事も知っているし、海外でもかなりの国がこうしたことをつかんでいる。

 

それでも、総理が失脚するでもなければ政界に激震も走らず、まして政権交代など囁かれることすらなく、たまたま別の要因から円は下がったものの、株価も暴落もせず、退任後銃撃で亡くなったその総理は、国葬までされたという現実を私たちは目撃してしまっているのだから、斎藤さん、なに寝言を言ってるの・・・という気分で白けてしまう。浅川さん、そんな世迷いごとに言いくるめられないでよと思ってしまう。

 

スタイリッシュな構成や俳優陣の素晴らしい演技で、初回から引き付けられ非常に見ごたえのあるドラマだったけれど、現実の方がはるかに強欲で悪辣で非情な世界であるばかりに、最後のさいごで本当にぞっとすることもできず、残念だった。

 

ずっと暗い顔をしてろくに食べられなかった浅川が、最後拓朗と美味しそうに大盛りの牛丼をぱくつくシーンはとても良かった。

 

願わくは現実世界にも、村井(岡部たかしさん、素晴らしかった!)や拓朗(眞栄田郷敦くん、一回り大きくなった!)のような、まっすぐで熱い男の作るニュースサイトが欲しい。