あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

隕石と優しい人たちの物語『星のひと』水森サトリ

優しさだけでできているような男、槙野草一郎35歳。その息子草太もまた何の屈託もなく育ったような爽やかな中学生。

 

若い父親だ。草一郎は、実は大学一年の時に合コンで知り合い何となく付き合い始めた相手幸恵に妊娠を告げられ、結婚を決意し大学をやめ働き始めた。幸恵の両親は大反対し本人も産みたがらなかったのだけれど、結婚の話でもめている時、丁度居合わせた隣家の小学校5年生の少年耕平に「人殺し!」と言われ、反対していた大人たちの態度が一変する。そうして無事この世に生を受けた草太は、耕平を「命の恩人」と思っている。

 

この草一郎と草太父子をめぐる人たちが、4つの話の登場人物となって綴られる連作となっていて、だんだんにそれぞれの関係や背景が分かってくる。

 

最初の話「ルナ」は草太の同級生の女の子はるきが中心だ。思春期らしい自我と周囲との葛藤を抱え、自分の思いに素直になれず日々苦しそうに生きている。そんな彼女は、のびやかに自然体で行動する草太が少々憎らしくまぶしい。仲良しの亜子が草太への恋心を抱いていると知り、ますます息苦しい毎日になる。

 

「夏空オリオン」では草一郎の仕事や家庭が描かれる。草一郎も草太ものほほんとして見えるが、草一郎の仕事が忙しすぎることもあって、夫婦の心には距離ができていた。そんな槙野家にある日、屋根も床も突き破って隕石が落下する。このニュースはテレビで報道され、離れて会わずにいた人にも彼らのことを思い出させ、運命が少しずつ動き出す。

 

「流れ星はぐれ星」は、草太の命の恩人となった耕平の物語。彼は槙野家の隣から引っ越して十余年の間に美しい女性になっていたが、そんな彼を受け入れない両親とは絶縁となっていた。テレビ画面で懐かしい草一郎の顔を見て、矢も楯もたまらずその家を訪ねてしまう。草一郎は実は耕平の初恋の人だったのだ。

 

「惑星軌道」は草太の同級生明浩の物語。彼は髪を「ひまわりのような」色にして、気の向いた時にだけ登校する。草太に対し、自分の行動を「母子家庭の俺に皆さんがあいつは今に悪くなる、まだ悪くならないか・・・と期待してくれているから、さっさとその期待に応えた、ボランティアだよ」とうそぶく。

 

なぜかその明浩と他校の生徒の衝突に草太は巻き込まれ、腕を骨折した状態で明浩とともに船に乗せられ川に流されることになる。夕方になっても戻らず携帯電話もつながらない草太を心配して、周囲の人々が騒ぎ出す・・・。

 

草一郎の優しさと人の良さは人間離れしていて、もしかしたらこの人は本当に普通の地球人ではないのかも知れないとさえ思う。しかしその並外れた優しさゆえに、妻や子には寂しい思いもさせてしまい、決して完璧な人にはなりえないところが、現代のこの社会の悲しさだと思う。

 

全編に悲しい優しさが満ちていて、でも各話を読み終えるごとに温かな涙が流れ、本を閉じた時、深い感動の余韻に包まれる。素晴らしい作品だった。2006年に小説スバル新人賞を受賞してデビューされたようだが、小説の発行は2007年の受賞作と2008年のこの作品しかない。もっとこの方の作品が読んでみたいと思う。