成風堂書店のアルバイト大学生多絵ちゃんが活躍するシリーズは、これで4作品目だろうか。本作は同じ著者のもう一つのシリーズの人物も登場しているらしい。
そのせいでもないだろうが、登場人物が多く、しかも書店大賞の授賞式当日の1日のできごとを朝の7時40分から時系列に沿って、時には10分刻みほどのスピードで追っていく。その都度場所も登場人物も変わるので目まぐるしく、一晩寝るとこの人物はどういう人だったかしら・・・ということになり、途中で初めに戻って登場人物の一覧を作った。
連作短編形式の1作目2作目は良かったが、3作目の本シリーズ初長編の『晩夏に捧ぐ』はちょっと期待外れだったので、これはどうかなと思ったが、わざわざ人物の整理をし直してまで読んでも、十分満足する読書だった。
実際にかなりの注目度になっている「本屋大賞」を思わせる、「書店大賞」という出版界の賞を巡るミステリー。本に携わる人々の熱い思いに支えられて育ってきたこの賞が、ある日関係者に届いた脅迫ファックスと、不正の存在を匂わせるマスコミへのリークによって大きく揺るぎかねない危機が訪れる。
なんとかそれを阻止しようとするたくさんの人々。書店大賞関係者の中心にいる大切な人のために、どうしても本屋さんの名探偵の力を借りたいと、多絵を頼って上京した福岡の書店のアルバイト店員花乃。この花乃とともに、いつもの多絵と杏子に出版社の営業も加わって駆け回る。
事件を追っていくと、8年前に店主の急死で店を閉じた金沢の書店が浮かび上がり、そこをやめた店員たちもそれぞれあちこちの書店で今も働いていて、中には単なる契約社員の書店員ながら、素晴らしい書評を書くことで有名になっている者もいた。
本を取り巻く現在の厳しい状況や、出版界の問題点などに考えさせられながら、謎解きの面白さにグイグイと引っ張られて読み進む。人の心の弱さと強さ。優しさや思いやりの持つ力。授賞式で盛り上がる会場の陰で、並行してどんどん謎が解かれていき、本への愛や人への愛に心を動かされる。
本を閉じた後も、個性的な出版社営業の面々のその後の日々を思ったり、彼と彼女の進展を想像したり、ほのぼのとした気分を味わう。