一時期非常に宮部さんの作品を読んでいたが、なぜかこのところ遠のいていた。三島屋の百物語も久々だが、宮部さんの作品自体何年ぶりかである。
500ページを超える分厚い本の、そのまた半分以上を表題作の『黒武御神火御殿(くろたけごじんかごてん)』が占めている。これだけで十分長編一冊として出版できそうだ。確かに読みごたえのある作品だが、私はこの作品の前に収録されている『同行二人』がしみじみと心に残った。
江戸で袋物を扱う三島屋では奇妙なものを集めている。「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに、黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客に、胸にしまってきた怖い話や不思議な話を語ってもらうのである。
不幸な事件で親を亡くし傷ついた姪のおちかを慰めるために始めたこの百物語だったが、そのおちかが貸本屋の若旦那の所に嫁いでからは、三島屋の次男富次郎が聞き手を務めることになった。その富次郎の初仕事からの4つの物語が収録されている。
『同行二人』の語り手は飛脚の亀一。はねっかえりであれこれの仕事をするがどれも続かず、いい年になってから始めた飛脚だったがこれが性に合い、妻をめとり娘にも恵まれ幸せに暮らしていた亀一だった。けれどもそんなささやかな幸せも長くは続かず、流行り病であっけなく妻子を失ってしまう。
こんな目に遭うのも、自分の若い頃の行状が良くなかったからだと自分を責める。つらさから逃げるために、ひたすら飛脚の仕事で走りに走る亀一が体験した不思議な話。同じように妻子を失った男ののっぺらぼうの霊と出遭うことで、自分も救われ男の霊魂も救われる。宮部さんらしい温かな人情噺だった。
さて、9月も20日の今日だが、相も変わらず大変な暑さだった。それでもなんとか見守り当番を終えることができた。来月回ってくる頃には、さすがに涼しくなっていることだろう。