直木賞と山本周五郎賞を、ダブル受賞したというのが非常に納得のいく素晴らしい作品だった。
睦月晦日の辺りが暗くなった頃、木挽町の芝居小屋の裏手で一件の仇討があった。雪の降る中、赤い振袖を被き傘を差した一人の若衆。被いた振袖を投げつけると白装束となり、朗々と「父の仇・・・」と名乗りを上げて大刀を構え、博徒作兵衛に一太刀を浴びせ、返り血で白装束を真っ赤に染め、さらに作兵衛の首級(しるし)を上げると、野次馬をかき分けて宵闇に姿を消した。これが巷間にて「木挽町の仇討」と呼ばれる。
二年後、参勤交代で江戸に来たという若侍総一郎がこの仇討の詳細を知りたいと、仇討を間近に見た芝居小屋の人々を訪ねてくる。そうして木戸芸者の一八、立師の与三郎、女形もするがむしろ衣裳部屋の仕事が本業のような吉澤ほたる、無口な小道具係の久蔵、戯作者の篠田金治らに話を聞いて回る。
ここまでがひとり一幕ずつで五幕までとして語られ、終幕は国元に帰った総一郎に、仇討をなしとげた若衆伊納菊之助が江戸の人々の近況を尋ね、さらに自身だけが知る仇討の真相について語っていくという構成になっている。
まず、仇討について語る芝居小屋の人たちが良い。それぞれつらい過去や人生を抱えながら、みな温かく人情にあふれている。そうして人々の話から徐々に見えてくる仇討の真実。終章でさらにその裏側にあったことや、菊之助・総一郎の関係など、全てが明らかになり、疑問や胸のつかえが晴れて、読み手は充実した読書に陶然となる。見事なミステリーであり、人情噺である。参りました!とさわやかにひれ伏したくなる。