深川元町の岡っ引き文庫屋の千吉親分は、女あしらいも飛び切りうまいが、弁が立って仲裁上手どんなもめごとも丸く収める名親分だ。ところがうまい物にも目がなかった親分は、フグを自分で料理して小唄の師匠と食べ、毒にあたって急死してしまう。
あららら、物語の主人公になるであろう名親分はいきなり死んでしまった・・・と読み手は茫然としてしまう。おまけに跡を継ぐような優秀な手下もいない。家業の文庫屋(戯作本や読本を入れる厚紙製の箱)こそ今までも中心になっていた万作夫婦が継ぐことに落ち着いたが、十手のほうは親分が手札を受けていた同心の沢井様に、「千吉の子分らの誰にも手札を渡すつもりはない。朱房の十手は返してもらう」と言い放たれてしまう。
親分に三歳の夏に拾われて、一番下っぱの子分をしていた十六歳の北一は、これからどうやって生きて行けば良いのか途方に暮れる。親分の目の見えないおかみさんの住まいや、万作夫婦の文庫屋などの建物の差配をしている富勘が、強欲な万作夫婦に北一に文庫を下ろすことを承諾させ、自分の管理している長屋に住むようにもしてくれて、北一はなんとか自分の働きで食べていけることになる。
この北一こそこの捕物帖の主人公で、これから彼の身の回りで起きる不思議な事件や事象を、周囲の人の力も借りながら解決していくのだ。
その周りの人というのは、目は見えなくともめっぽう勘が鋭い親分のおかみさんや、文庫売りの仕事の中で知り合うある武家屋敷の用人、行き倒れていたところを風呂屋の爺婆に助けられ恩を感じて釜焚きをしている十七歳の喜多次などだ。宮部さんらしく、どの人物も魅力的だが、とりわけ喜多次は謎に包まれていて興味をかき立てられる。
北一と喜多次。きたきた、である。ともにティーンエイジャーであるこの二人が相棒らしくなるまでが、本作の四つの物語で綴られていく。主人公コンビは若いし、宮部さんはこの捕物帖を生きている限り書き続けていきたいと仰っているようなので、当分この二人の活躍を楽しめそうだ(昨年の秋に3巻が出版されている模様)。
