都会の生活に行き詰まり、住んでいるマンションを売って田舎に帰ろうとしている中年男佑作は、マンション内の年上の友人串本を訪ね、応答がないので開いているドアから中に入り串本の死体を発見する。
佑作には今このことを警察に届けられない事情があり、知らなかったことにしてそっと自分の部屋に戻る。ところがこの状況を動画に撮っていた男がいて彼を訪ねて来る。学生らしい若いその男は、串本の部屋から取ってきてほしいものがあると、動画をネタに脅してきた。
仕方なくもう一度串本の部屋に行くと、なんと死体は消えていた。こうして死体が消えたり出現したりするミステリーが動き出し、中年男と高校生というおかしなバディが様々な謎に挑戦することになる。
死んだ串本は、マンション内の若い母親たちには「気持ち悪い人」と言われ、不審者扱いされている。どうも串本は小さな女の子に声をかけたり、向かいのマンションの怪しげな集まりにも出かけていたらしい。
高校生は、祐作の住むマンションの上の階の女性の孫で、紘人だと分かる。祐作は串本が母親たちの言うような人物だとは思えず、紘人とともに串本の生前の行動を追っていき、友人串本の知らなかった面を知っていく。
都会のマンションの人付き合いがどのようなものか知らないが、この祐作のマンションは、バラバラではあるもののいくつかの人のつながりがあり、調べるにしたがって人やグループが今までと違って見えてくる。
世の中は、人は、こういうものかも知れないなと思う。よく知らないと怪しげに見えてしまう。自分に敵対する人に見えてしまう。それがお互いの誤解をさらに深くしていくところだけれど、一歩踏み出して相手を知ることでまるで違う面を知る。
幕開けは驚いたが、読み終わってみればやはり大崎梢さんらしい作品だった。傷ついて都会の生活を引き払おうとする祐作にも希望が見え、平日に私服で祖母の家に入り浸ってい紘人も、高校生らしい生活に戻れそうだ。
出会った時にはお互い「さえない中年男」「生意気な高校生」と思っていたことだろうが、ラストではその二人の間に温かな気持ちの交流が見られ、とてもほのぼのとした読後感に包まれる。
現実世界では悪夢のようなことが起きているが、フィクションの世界に逃避していた。
