あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

年年歳歳の人と花『犬がいた季節』伊吹有喜著 【追記】あり

四日市進学校、八稜高校(通称ハチコウ)に迷い込んだ白くてムクムクした犬。生徒会長の藤原貴史、美大を目指す早瀬光司郎、石窯パン工房の娘塩見優花の3人は里親を探すが思うように見つからず、学校側と掛け合い、校長の許可を得て学校で飼うことになる。

 

3人は美術部の部員だったので美術部の部室にケージを置いて飼うことになり、世話をする「コーシローの世話をする会」のメンバーも決まる。コーシローという名は、藤原が見つけたとき、美術部室の光司郎の席にちょこんと座っていたのでふざけて「コーシロー」と呼んだことからついた。

 

コーシロー飼育の記録を取るようにと校長先生から5年連用日記を渡され、結局その日記は3冊にまで増える。その日記に記録された昭和63年から平成11年までの12年間が5つの物語になり、高校の創立100周年祭が行われた令和元年の物語が最終話として構成されている。

 

犬のコーシローはもちろん全編に登場するが、第1話で小さな子供で登場した子が、第5話では「世話をする会」のメンバーとなっているなど、独立したそれぞれの話に微妙なつながりがあるのも面白い。

 

そしてコーシローだけではなく、コーシローが最も慕った人優花も、全編に気配が漂う。犬であるコーシローには、3年ごとに人間が入れ替わることが理解できない。みんな彼を可愛がってくれるけれど、コーシローは大好きな優花が現れるのを待っている。いつも、彼女に会える確率が高いと思う場所に陣取っているのだが、生徒たちはなぜ彼のお気に入りの場所が季節などによって変わるのか分からない。

 

進路や家庭の事情に悩み、秘めた思いやちょっとした冒険に心躍った日。甘酸っぱく懐かしい青春のさまざまな姿が、当時のニュースやはやった音楽などとともに描かれる。読んでいて、私もその頃のことが懐かしくよみがえったりした。また第3話では阪神淡路大震災のことが描かれ、それがコーシローの世話をしていた少女の進路にも影響したことが最終話でうかがえる。

 

回り道をしながらも、最後はコーシローの最も愛した優花が、幸せをつかんだようで良かった。幸せな犬と、彼と青春を過ごした少年少女たちの美しい物語だ。

 

 

【追記】

この本はどなたかのブログで知ったんだった・・・と思いつつ書いたが、つるひめさんにコメントをいただいて、そうだつるひめさんだった!と思い出した。つるひめさん、忘れっぽくてごめんなさい。

つるひめさんの紹介文にも「キュン」となってしまいそうな、素敵なエントリーをどうぞ:

tsuruhime-beat.hatenablog.com

 

 

 

コーシローの中で優花と重なる十四川の桜。四日市の桜の名所らしい。