あとは野となれ山となれ

たいせつなものは目に見えないんだよ

本・動画感想

美味しいものと優しい人たちとくれば面白くない訳がない

先週の土曜日に居室替えがあって、比較的退院の近い患者が多いという3階の部屋になった。 今までいた2階の談話室にもある程度雑誌は置かれていたので、車椅子が使えるようになるのを心待ちにして行ってみたが、ほとんどが週刊誌など私の関心のないものばかり…

ねことじいちゃん再び!

先日面会に来た次男が、もうだいぶ本を読んでしまっただろうと次の本を数冊、また本棚から抜粋して持ってきてくれたのだが、その他に、「ねことじいちゃん」の新しい作品を買ってきてくれた。 この漫画は以前ブログ友だちの方が、絶対私が好きだろうと、6巻…

エンタメを堪能する『美食探偵 明智五郎』

本作は世の中がコロナで大騒ぎになる前から撮り始めていて、途中で緊急事態宣言が出されて撮影も中断に追い込まれるという大変な事態を味わう作品となったようだ。5年で世は様変わり。そんな騒ぎを遠い昔のように感じながら、全9話を楽しんだ。 主人公は表…

映画の続編か『花のたましい』朱川湊人著

4月25日に公開された映画『花まんま』の続編らしい。小説『花まんま』はもう20年も前に出版され、133回の直木賞を受賞した朱川湊人さんの短編集。私自身は映画も見ていないしその受賞作も読んでいないが、結構好きな朱川さんの美しい新作が生涯学習センター…

新旧新幹線大爆破

ネットフリックスの『新幹線大爆破』を見た。 サイトの紹介文: 走行中の新幹線に一定の速度を下回ると作動する爆弾が仕掛けられ、危機に直面した乗務員・乗客や鉄道会社、政府、警察の面々と、爆弾を仕掛けた犯人が繰り広げるノンストップの攻防戦を描く。 …

こんなお医者様に出会いたい『スピノザの診察室』夏川草介著

出版社のサイトから著者の言葉: 医師になって二十年が過ぎました。その間ずっと見つめてきた人の命の在り方を、私なりに改めて丁寧に描いたのが本作です。医療が題材ですが「奇跡」は起きません。腹黒い教授たちの権力闘争もないし、医者が「帰ってこい!」…

深い怖ろしさ『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー著

それほどたくさんクリスティーを読んでいるわけではないけれど、この作品はたぶんクリスティー作品としては少し毛色が変わっている。 1930年代のイギリス。地方弁護士の夫との間に一男二女に恵まれ、自分はよき妻・よき母であると満足している主人公ジョーン…

「普通」の呪縛『ミドリのミ』吉川トリコ著

表紙の雰囲気から、てっきりほのぼのしたお話だと思って借りて来たが、なかなか考えさせられる内容だった。 小学三年生のミドリはドレミの歌を「ミはミドリのミ」と歌って、クラスのみんなに冷たい目で見られてしまう。ミドリの家ではいつもこう歌っていた。…

タイミングの問題

これまで何作も読んできた、好きな作家の柴田よしきさん。ほのぼのした話からピリッとしたミステリーまでいろいろ書かれる。先日リクエスト本3冊を返しに行ったとき、生涯学習センターの図書室の棚にこの柴田さんの作品を見つけたので、迷わず借りて来た。 …

誠実な生活者『ダイヤモンドダスト』南木佳士著

この人の文章はご自分の精神安定剤だと仰って、たびたびぷよねこさんが取り上げられる南木佳士さん。興味を引かれて読んでみた。 puyoneko2016.hatenablog.jp まずは芥川賞受賞作の『ダイヤモンドダスト』。昭和63年下期、つまり昭和最後の芥川賞受賞作とい…

哀しくも美しい世界『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子著

上下の唇がくっついた状態で生まれた少年は、それが原因という訳でもないのだろうが、極端に口数の少ない子供だった。閉じた唇を開かせるための手術で皮膚が剝がれ肉がむき出しになった唇に、医師は赤ん坊の脛の皮膚を移植した。そのため少年の唇には産毛が…

つながっていく人の想い『クスノキの番人』東野圭吾著

水商売で働く母と妻子ある男との間に生まれた玲斗は、父親である男に認知もしてもらえず、母は早くに死んで、祖母と二人で生きて来た。 働いていた工場を理不尽な理由で解雇され住む所も失った彼は、残りの賃金ももらえなかった腹いせにその工場に盗みに入り…

フレッシュなコンビの誕生『きたきた捕物帖』宮部みゆき著

深川元町の岡っ引き文庫屋の千吉親分は、女あしらいも飛び切りうまいが、弁が立って仲裁上手どんなもめごとも丸く収める名親分だ。ところがうまい物にも目がなかった親分は、フグを自分で料理して小唄の師匠と食べ、毒にあたって急死してしまう。 あららら、…

家族を考える『あしたの幸福』いとうみく著

父親と二人暮らしだった雨音(あまね)だが、そのたった一人の家族である父を交通事故で突然失ってしまう。交差点で隣に立っていた、来月籍を入れることになっていた婚約者の帆波さんはちょっとした怪我で済んだのに。 父の妹である洋子おばさんは「うちにお…

『家が好きな人』で盛り上がる

先日ちょっと画像だけご紹介した『家が好きな人』。いつも利用する生涯学習センターにリクエストしたものの、図書館のサイトでは数十人待ちになっていたので相当待たなければならないだろうなと思っていた。やはり8か月ほど待たされたので、もう世間のブー…

素敵な二人

アマゾンプライムで『À Table!〜歴史のレシピを作ってたべる〜』というドラマを見つけ、見始めた。2023年の作品らしいが、ちょうど「ウエディングケーキ」のエントリーにいただいたレビさん(id:rinngonotane)のコメントにこのドラマのことが出てきてビックリ…

ウエディングケーキ

拙エントリー「いちかのミニトマト」にいただいたneruzohさんのコメントへのお返事でも書いたのだけれど、このたびミニトマトに続いて「ウエディングケーキ」問題が出て来てしまった(「いちか」は作品では「いち日」)。ドラマ『ながたんと青とーいちかの料…

いちかのミニトマト

『ながたんと青とーいちかの料理帖ー』を、アマゾンプライムで楽しく見ている。時代背景は終戦から少し経った1951年、ちょうど私が産声を上げた年だ。この時代の京都の老舗料亭とくれば、背景画面を見ているだけでも楽しい。そこにさらに美味しそうな料理が…

冤罪の恐ろしさ

半世紀近く拘束されたのちに、やっと冤罪が晴れた袴田さんのニュースも記憶に新しいが、今野敏さんの『化合』を読んでいる最中に、ネットフリックスで横浜流星さんの『正体』が見られるようになったので視聴した。 『化合』も、検事が余命いくばくもない恩師…

ときめく『夢見る帝国図書館』中島京子著

この間触れたばかりの、まず間違いがないという図書館がテーマの作品。しかも著者は中島京子さんとくれば、面白くないわけがない。 主人公は喜和子さんという何とも不思議な女性。そして帝国図書館(現在の国際子ども図書館)。建物だけれど、立派な主役。そ…

応援したくなる作家『食っちゃ寝て書いて』小野寺史宜著

横尾成吾は作家である。子供のころは長く文字を読み、大人になってからは長く文字を書いた。というか彼には文字しかなく、書いては文学賞に応募を繰り返すうち、なんとか小さな出版社の新人賞を受賞して作家としてデビューした。 少しくらいの距離なら交通機…

読む楽しみ感想を書く楽しみ

sumita-mさん(id:sumita-m)が言及してくださったお陰で、『ことり』の読書がより深さを増した。 sumita-m.hatenadiary.com とりわけ八幡謙介さんの深い感想には大いに刺激をいただいた。こういうことが読書会の楽しさだなと痛感する。今は一堂に会さず、場所…

大切に読みたいかそけき世界『ことり』小川洋子著

両親亡き後、ひっそりと暮らす7歳違いの兄と弟。少しゆっくりではあるものの、普通に育っていると思った兄が、11歳のころ無口な数か月を過ごしたのち、不意に意味不明の言葉をしゃべりだした。 両親はあらゆる努力をしたが兄の症状は改善するどころかますま…

グランメゾンより天狗の台所

録画しておいた年末のスペシャルドラマ『グランメゾン東京』を見始めたが、なんだかのらない。以前日曜劇場枠で放送された連続ドラマ(2019年)は見たのだけれど、これも加齢とともに興味の範囲が狭まっている影響か。 料理に関わる人々の思惑や欲望の絡み合…

『阿修羅のごとく』

ネットフリックスで是枝監督の『阿修羅のごとく』を面白く見ている。『阿修羅・・・』といえばあの音楽も印象的なNHKのドラマがまず思い浮かぶと思うけれど、映画にもなり舞台化もされた向田邦子さんの人気の作品だ。 今回は母親が松坂慶子、長女が宮沢りえ、次…

誰かが引き受けていくということ『夢幻花』東野圭吾著

2025年の読書一冊目。安定の東野圭吾さん、しかも柴田錬三郎賞受賞作とあってさらに期待は高まる。 Amazonの紹介サイトより: 花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者である孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の…

消えゆく美しい世界『日比野豆腐店』小野寺史宜著

本当に、どこかの町の一角にありそうな小さなお豆腐屋さんの平凡な毎日のお話。でも、現実には、今の世の中には、もうこんな優しい世界はなかなか見つけられないのかもしれない。 京成本線の堀切菖蒲園。その駅から歩いて5分ほどのところにある日比野豆腐店…

幸せな時代の幸せな家族『鳥の水浴び』庄野潤三著

***** 名作『夕べの雲』から三十五年。時は流れ、丘陵の家は、夫婦二人だけになった。静かで何の変哲もない日常の風景。そこに、小さな楽しみと穏やかな時が繰り返される。暮らしは、陽だまりのような「小さな物語」だ。庄野文学の終点に向かう確かな眼…

ありそうで怖い『アイスクライシス』笹本稜平著

この物語のどのあたりまでが事実で、どこからがフィクションなのか。巨大国家の機密維持のためなら、民間人を事故に見せかけて抹殺する・・・くらいのことは、いかにもありそうで怖ろしい。 先日読み終えたオオカミと人間の物語に心がふるえ、やっぱり笹本稜平…

人類であることが悲しくなる『分水嶺』笹本稜平著

写真家風間健介の父は、日本では五指に入る山岳写真家である。健介は父と異なるコマーシャルフォトの分野に進み、大きな賞をいくつも受賞して時代の寵児となるが、しかしいつのまにか流れの本流からは外れてしまう。 そんな時、父恭造が脳出血で突然亡くなり…