あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

本・動画感想

これもあれも変わっていく

読み終わったリクエスト本3冊を抱えて、生涯学習センター(旧地区市民館)に返却に行った。図書室の書棚に『推し、燃ゆ』があった。2021年第164回の芥川賞受賞作だ。 著者宇佐見りんさんは1999年生まれなので、本作出版時(2020年9月)は21歳だ。現在の我が…

贅沢な装丁だったらしい『群青の湖(うみ)』芝木好子著

「どうしたら、文章がここまであざやかに風景や色彩を写しとることできるのか。芝木好子の小説を読むと、描写力の力強さに、きめ細かさに、圧倒されてしまう」というsmokyさんの最後の文章に惹かれて、この作品を市民館(4月からは生涯学習センターと名称変…

茶の間から見た戦争『小さいおうち』中島京子著

2010年に第143回直木賞を受賞した作品で、2014年山田洋二監督によって映画化された。映画は主に女中タキが仕えた女主人時子の秘めた恋に重きが置かれていたように思うが、小説は舞台となった戦前から戦中の中流階級の生活が、こまやかにいきいきと描かれてい…

人生の極意『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ著

以前映画を(と言っても劇場ではなくネットフリックスでだと思うが)見て、まあまあ良かったのだけれど、marcoさんが原作の方が何倍も素晴らしいということを書いていらしたので、早速市民館にリクエストして読んでみた。あらすじはmarcoさんも書いていらっ…

コップの中の嵐か『平成大家族』中島京子著

『小さいおうち』の中島京子さんの作品。と言っても、私はこの作品を映画では見たものの、小説はまだ読んでいない。映画もとても良い作品だったが、原作はその何倍もいいとのことなので、いつか読みたいとは思っている。 ただ、同じ著者の『彼女に関する十二…

記録として・・・『Q&A』恩田陸著

学校行事の一日だけを描いた『夜のピクニック』、音楽の魅力を言葉で紡ぎ出した『蜜蜂と遠雷』など、恩田さんの作品には驚かされることが珍しくないが、この作品もタイトルといい、地の文が全くない構成といい、実に斬新だ。 都下郊外の大型商業施設で多くの…

手の中の宝石に気付く『月夜行路』秋吉理香子著

沢辻涼子は小学4年生からひたすらバレーボールばかりをしてきた。スポーツ推薦で大学に進み、その後は実業団のチームに所属し少しは雑誌のインタビューを受けるようにもなるが、それがピークで、全日本の選手に選ばれることはなく、やがて大手出版社のスポ…

家族のややこしさと素晴らしさ『戸村飯店青春100連発』瀬尾まいこ著

『そして、バトンは渡された』の瀬尾まいこさんの作品だ。この作品は未読だけれど、映画がとても良かったし、以前読んだ『傑作はまだ』も心温まる作品で、この著者のものをもっと読みたいと思っていた。 hikikomoriobaba.hatenadiary.com それで、この『戸村…

恋愛って素敵と思える『キム秘書はいったいなぜ?』

若くして大企業ユミョングループの副会長を務めるイ・ヨンジュンは、飛び級をして2歳違いの兄と同じ学年で学んだほどの秀才だった。ビジネスにおいても完璧主義者の彼だったが、9年間にわたって秘書を務めてきたキム・ミソに「退職したい」と告げられにわか…

自分ならどんな人格が出現?『わらの人』山本甲士著

どうにもタイトルの意味が分からず、検索をかけてみるとこんなサイトがヒットした。 lecoledefrancais.net 昔、ダスティン・ホフマン主演で『わらの犬』という映画があった。『わらの女』も『わらの犬』も、主人公の隠れていた人格が現れてくるという所が共…

争いと進歩

昨日感想を書いた『シーソーモンスター』に関連して、今日は争いと人類の進歩について書こうと思っていたら、珈琲好きの忘れん坊さん(id:external-storage-area)が、ちょうど同じようなことを書いていらして驚いた。 www.external-storage-area.com 『シーソ…

のめり込む面白さ『シーソーモンスター』伊坂幸太郎著

ああ、やっぱり読書って本当に面白い!このところ、自分の興味の幅が狭くなってきているのではとか、集中力が弱くなってきているのではとか思い、老化現象かと寂しく感じていたが、いやなんの、面白い作品に出合えばまだまだこれほどまでにのめり込んでしま…

まさにココアの味わい『木曜日にはココアを』青山美智子著

特にカフェインの入った飲み物を飲んだわけでもなければ、実に穏やかな一日で興奮するようなこともなかったのだが、なぜかゆうべは久々になかなか寝付けず、寝床を眠れなくて悩む場所にしてはいけないと思い、とうとう日付が変わった頃に起き出した。 リクエ…

温かさとひりひりする寂寥と『さやかに星はきらめき』村山早紀著

また良い本に出合えた。今よりはるか未来の、すでに地球は人類が住めない星になってしまい、月を始めとする宇宙のあちこちに移住して、ネコビトやイヌビトやさらにヒトとはまるで違った異星人とも共存するようになった時代のお話。そうSFファンタジー小説…

あとどれくらい本を読めるかな『本を守ろうとする猫の話』夏川草介著

先日読んだ『始まりの木』があまりに素晴らしかったので、同じ著者の本をもうしばらく読みたいと思った。映像化もされた『神様のカルテ』が代表作なのだろうけれど、あえてそれをはずして『本を守ろうとする猫の話』を選んだ。もちろん、marcoさん(id:garada…

静かにしみる12の物語『少しだけ欠けた月』重松清著

春・夏・秋・冬と4冊出ているシリーズ物の短編集『季節風』のうちの一冊らしい。産経新聞で連載された作品を、2008年のそれぞれの季節に出版している。装丁は「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」を象徴する、青・赤・白・黒を基調としたデザインとなっている…

この時期にピッタリな『キャロリング』有川浩著

題名といい装丁といい、この時期にピッタリと思い手に取った。 「こちらを向いた銃口にはまるで現実感がなかった」というハードボイルドタッチで始まるが、読み終わってみれば、この装丁のイメージのような、美しくて愛らしいものを小箱に詰めてリボンをかけ…

つらい読書

日本語教室でのペルー人の女性たちとの話から、ノーベル文学賞受賞者のペルーの作家マリオ・バルガス=リョサさんを知り興味を持ったので、今そのリョサさんの作品『ケルト人の夢』を読んでいる。 本当は他の作品に興味を持ったのだけれど、豊橋市の図書館に…

魅力的な獣医大生の生活『ただいまラボ』片川優子著

著者の片川優子さんは、中学3年生のとき執筆した小説『佐藤さん』で第44回講談社児童文学新人賞に佳作入選し、その作品が翌年刊行されデビューしたという早熟な作家さん。まだ30代半ばという若さだ。 その後麻布大学獣医学部に進学し、同大学分子生物学研究…

土曜の朝、日曜の朝

目下の土曜日の朝の楽しみは、前夜に録画されている『きのう何食べた?』を見ることだ。夜まで待てず、朝一段落つくと見てしまう。こんな風に録画したものをワクワクして見るのは、残念ながら今季のドラマでもこの作品しかない。 今回の話はまた一段と心にし…

これが日本の宿痾かも『花のさくら通り』荻原浩著

タイトルは暗いが、この作品自体は明るく楽しく温かい気持ちになる物語だ。ただ、描かれているテーマ、さくら通り商店街の抱える問題の根っこは、日本のあらゆる分野に巣食っている深刻な病ではないかなと思う。 物語りは、不況のため都心のオフィスから都落…

過疎の町の薄明り『向田理髪店』奥田英朗著

元は炭鉱で栄えたが、エネルギーが石油に代わるにつれて衰退し、やがて財政破綻した北海道の苫沢町という架空の町が舞台となっている。2022年に公開された映画では、同じ炭鉱の町ではあるが、九州が舞台になっているらしい。 主人公はこの町で理髪店を営む向…

不思議な長野ワールド『よろづ春夏冬中』長野まゆみ著

タイトルは「よろずあきないちゅう」と読む。 全て十数ページの短い話が14編。幻想的な不思議の国に迷い込む。鳥肌が立ちそうな展開もあるのだけれど、なぜか読後はサラリとしている。 出版社のホームページより、担当編集者による紹介文: 希(ねが)いを叶…

消えゆく古き時代『麹町二婆二娘孫一人』中沢けい著

東京は麹町に残る古い屋敷で暮らす、亥年生まれの女5人。お嬢様気質の抜けない牛島富子と娘の美智子、美智子の娘真由。そして富子が子供の頃から「ねえや」として付き添ってきたきくと、その娘の紀美だ。 皇太子御成婚の年の生まれだから名付けられたという…

人々の小さな営み『ひとっこひとり』東直子著

すべて18ページのごく短いお話が12編。「小説推理」に2022年5月から2023年4月まで1年間掲載された作品のようだ。市民館の新刊書のコーナーで見つけた。 出版社の紹介文: 私たちが日常で交わす何気ない言葉、「大丈夫」「ごめん」「もういいよ」「なんで?…

寂しい魂『存在の美しい哀しみ』小池真理子著

タイトルに惹かれたが、自己陶酔型の物語だったら・・・という一抹の不安がよぎる。しかし、小池真理子さんの作品では今までそうしたものに出合ったことはないので、信じてみることにした。 プラハ芸術大学の音楽学部チェロ科の修士課程まで終えて、今もプラハ…

気持ちよい仕事ドラマ『ストーブリーグ』

ストーブリーグとは、プロ野球のオフシーズンをさす言葉だ。スポーツとお金の嫌になるほどの癒着を目にしてきて、すっかりスポーツ嫌いになってしまった私だけれど、ネットフリックスのレコメンドで現れたこのドラマを、あらすじに惹かれて見始めた。 主人公…

誰が悪者か『ナイチンゲールとばら』オスカー・ワイルド著

オスカー・ワイルドの有名な短編『ナイチンゲールとばら』。私の大好きな「ちくま文学の森」ではなぜか第8巻「悪いやつの物語」に収録されている。 ご存じの方も多いと思うが、あらすじは 青年はある女性に恋をしている。その女性から真っ赤なばらを持って…

1000キロ余をはだしで歩く子供たち『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』

気に入ったドラマは時に2話分続けて見たりするくせに、なぜか2時間前後の映画となると、なかなか見る決心のつかない妙な私だ。それで、ネットフリックスのマイリストにもいっぱい映画が入れてあるのに、なかなか減らない。 集中力の低下と言うより、「2時…

通い合う心『ナビレラーそれでも蝶は舞う』

ここのところ『ナビレラーそれでも蝶は舞うー』に夢中だった。見始めたら止まらない感じで、60分前後の12話を数日で見てしまった。ネットフリックスで視聴。 それぞれにいろいろな悩みや問題を抱えた人々が、一人の年齢に似合わない夢を持ったおじいさんの影…