あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

不思議な長野ワールド『よろづ春夏冬中』長野まゆみ著

タイトルは「よろずあきないちゅう」と読む。

 

全て十数ページの短い話が14編。幻想的な不思議の国に迷い込む。鳥肌が立ちそうな展開もあるのだけれど、なぜか読後はサラリとしている。

 

出版社のホームページより、担当編集者による紹介文:

希(ねが)いを叶える貝殻細工の小箱から……置き薬屋が残した試供品の酔い止めから……朝顔市で買った夕顔の鉢植えから……和泉屋の苺のショートケーキから……骨董商で見つけた蓋つきの飯茶碗から……思いがけないことから、彼らの運命は動きはじめる。或るときは異界と交じり、或るときは時空を超え、妖しく煌く14の極上短篇集。

 

旧仮名遣いというわけでもないのだけれど、独特の文字遣いと言葉の選択で、長野ワールドを作り出している。著者は美大の出身で、寓話調の挿画も著者自身によるもの。

 

会社の上司から花見の陣取りを云いつかって、一人公園の櫻の下で過ごす中浜は春山で消息を絶った兄を思い出す。大学受験を控え、苦手だった古文を教えてもらった兄の友人の高尾にも思いは飛ぶ。その高尾は、高校生だった中浜に「アヅナヒ」という言葉を知っているかと尋ねた・・・。(「櫻」「云う」は原文による)

 

桜には幻想的な話がよく似合う。思い出と幻想と現実が入り混じるこの「花の下にて」が、特に心に残った。