あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

のめり込む面白さ『シーソーモンスター』伊坂幸太郎著

ああ、やっぱり読書って本当に面白い!このところ、自分の興味の幅が狭くなってきているのではとか、集中力が弱くなってきているのではとか思い、老化現象かと寂しく感じていたが、いやなんの、面白い作品に出合えばまだまだこれほどまでにのめり込んでしまえるのだと実感した。

 

久々の伊坂幸太郎さん。最近楽しんでいた夏川さんや青山さんなどの作品とはまるで違った楽しさだった。特に後半の『スピンモンスター』など、あまりの展開の目まぐるしさに、目が離せないというか、息もつけないほどに夢中で読んでしまった。

 

430ページほどで活字も少し小さめなので結構なボリュームの本だ。その中に2つの作品が収められている。

 

前半の『シーソーモンスター』はバブル期の日本を舞台に嫁姑問題で始まるので、あら伊坂さんちょっと作風が変わった?と思ったが、すぐに主人公である嫁の宮子(製薬会社の平凡な営業マン北山の妻)の結婚前の職業が情報員で、特殊な訓練を受けた大変な能力の持ち主であることが分かる。

 

この宮子と、同居する北山の母とがもう犬猿の仲以上、この物語では海族と山族と称され、生まれながらに反発し合う宿命にあるとされている。嫁と姑は反発し合う磁石の同極のように火花を飛ばし合いながら、けれども互いに理性とプライドでその火花を隠し丁々発止の日々だ。しかし北山が危険に巻き込まれたことで嫁も姑も彼を救出するため奮闘することになり、事態は思いもかけない展開をし・・・というお話。

 

そして後半の『スピンモンスター』は2、30年先の近未来を舞台とした物語。やはり中心となるのは海族の水戸と山族である檜山で、二人は少年期に不幸な自動車事故で出会い、その後高校で再会し、なぜか今は東北新幹線の中で「手紙の配達人」としての仕事中の水戸と、捜査のために乗り込んできた刑事の檜山とが遭遇する。デジタル偏重によって重大な社会問題が起きて、この時代は再び重要なことはアナログの手紙での通信方法がとられている。

 

水戸が仙台まで届けることになっていた手紙が犯罪に関係していたらしく、中身を知らずに運んでいた水戸は、手紙の受取人の中尊寺とともに否応なく事件に巻き込まれていく。どうやらAIが暴走を始めているらしい・・・という、出版は2019年だがチャットGPTが話題の今なら、さらにこの設定の現実味が増して怖ろしさもひとしおだ。同時にネット情報に振り回されるこわさも現代の私たちの日常と重なる。

 

紙とペン(現代では多くの作家がコンピューターだろうが)さえあればこんな楽しい世界を作り出してしまう小説家という仕事に、改めて敬意をささげる。