あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

全身翻訳家(自称)鴻巣友季子さんの随筆『やみくも』

表紙のワンちゃんが可愛らしくて、思わず手に取った。本文中にも、この可愛い絵を描くイラストレーターさげさかのりこさんの挿し絵がふんだんにあって、軽妙な文章とともに大いに楽しませてくれる。

 

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まずは表紙に惹かれての読書だったが、文章も非常に楽しい。外国語に堪能ならば翻訳家になれるというものではないことを考えれば、文章がうまいのは当たり前か。日本経済新聞他のメディアに連載または掲載されたものを加筆訂正してまとめられた作品らしい。

 

本業の翻訳にまつわる話から、保育園に通う娘さんの話、食べ物や日常見聞きした出来事など、多岐にわたって軽妙な筆致で綴られる文章は、楽しく飽きさせない。

 

読み終わってから、どんな作品を翻訳していらしたのか興味がわいて調べたら、なんとNHKの「100分で名著 風と共に去りぬ」の指南役をした方だった。数か月前に録画を見ているのだけれど、どんな方だったか記憶にない。同番組のサイトの写真を見てやっと思い出した。結構奇抜なファッションをしていらして、それが記憶に残っていた。

 

2015年に新しい『風と共に去りぬ』を翻訳出版されている。私は高校生の時に初めて読み、折りに触れ好きな箇所を何度も読み返したりした大好きな本だ。その後映画でクラーク・ゲーブルのバトラー船長に魅了され、たぶん、DVDも一番初めに手に入れたのはこの『風と・・・』だったと思う。

 

1991年に続編の『スカーレット』が執筆され、日本では人気作家だった森瑤子氏が翻訳を担当されたが、私はマーガレット・ミッチェルの作品世界が壊れるのを恐れて読んでいない。けれども、この鴻巣さんの新訳は読んでみようかしらと、ちょっと興味がわいてきている。

 

あとがきで、著者はご自分のことを「なにかやりだすとすぐ、横道へ横道へとそれていってしまう。本や映画などでは、本筋と関係ない些事・細部に目がいく。仕事の成果に直接影響がないことに限って力が入る。凝りまくる。道端の穴が妙に気になる。」と書いている。そして、こうしたことに思いあたる方は、「やみくも体質」の恐れがあると。

 

自分の人生は寄り道の連続で、仕事は道草によって成り立っているのだそうだ。仕方がないので、「寄り道は回り道にあらず」というのを信条にかかげていると言う。「道草は食え、穴には落ちよ」という翻訳者の生活を綴るエッセイは、読んでどうなるというものでもないが、楽しい時間だった。

 

 

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著者による新訳『風と共に去りぬ』(全5巻)