初めての著者。1953年生まれで私より2歳年下なのに、7年前に62歳で亡くなっている。せっかく良い作品を書く作家さんを知ったと嬉しく思ったのに、もう新しい作品は生まれないと思うと残念だ。
江戸時代に実際に売られていたという占いの本『女用知恵鑑宝織』を軸に、その生れ月に合わせて12人の女性の物語が展開する。
したがって、「一文獅子」「冬青(そよご)」「春告鳥」「空木(うつぎ)」「つばめ魚」「あした天気に」「ト一(といち)のおれん」「秋鯖」「ごんぱち」「夕しぐれ」「お玉」「万祝(まいわい)」の12編。
どの話も、江戸の風物とともに、主人公の女性やその周囲の人間がいきいきと描けていて引き込まれる。とりわけ5月生まれのお孝の話(つばめ魚)が良かったと思うのは、自分の生まれ月ゆえのひいき目か。
「つばめ魚」
日本橋本船町の活物問屋伊勢屋の家継ぎ娘お孝。亭主の栄次郎は周囲に「役者婿」と噂される色男だが、商売には身が入らず、女に入れあげてあちこちに借金を作る始末だ。一粒種の栄吉も三歳の夏に疱瘡で亡くす。
やがて栄次郎は質の悪い美人局にかかり、ついに伊勢屋から出される。その美人局の件で伊勢屋の危難を救った早見という男は、妻を失くして男の子を一人で育てている。昔はその美人局の悪仲間と同類だったと自嘲するが、妻を死なせてからすっぱり足を洗ったというその男に、お孝は次第に惹かれていく・・・。
シャキシャキとしたお孝の人柄も、いなせな男前の早見も魅力的で、「前世にて継子を憎み、兄弟仲悪しきゆえ子に縁なし」と、5月生まれのお孝の占いにあっても、どうかこの二人と、可愛い早見の息子の三人が幸せになれるようと祈ってしまう。
この他にも、大道で芸をする白ねずみの出てくる「冬青」や、南天を描いた象牙の祖母の形見の櫛にヒロインが救われる表題作「春告鳥」や、「前世にて色深く、親に隠し、人目を忍び、男に逢いたるゆえに目を患う。夫に疎まるる事あるべし」とさんざんな見立ての12月生まれのお梶の話も胸を打ち、余韻を残す。
明和6年刊という『女用智恵鑑宝織』(本作品では「知恵」を使用)