あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

正直者が馬鹿を見る?『シッコウ!~犬と私と執行官』

大森美香さん脚本によるドラマ『シッコウ!~犬と私と執行官』で、執行官なる仕事を初めて知った。

 

執行官とは、特別職の国家公務員で地方裁判所の管轄下にある職員でありながら、執行処分で得る手数料による出来高払いの、一種の独立採算の仕事なのだそうだ。

 

ドラマは裁判所書記官からその執行官に転職して1年目の、執行官としては若手(!)である小原樹(織田裕二)と、執行官の補佐として働く吉野ひかり(伊藤紗莉)が出合う執行事案を描く。

 

吉野はペット好きが高じてペットサロンに就職しながら、その会社が倒産したことから小原と出会う。犬が大の苦手である小原が、吉野に執行時に犬がいた場合の助っ人を頼んだことから一緒に働くことになる。

 

第一話はその吉野が就職したペットサロンが執行対象になるが、社長(板谷由夏)にまんまと夜逃げされてしまうという話だった。

 

第二話の債務者は人気「EXtuber」の轟木(細田善彦)で、お笑いコンビの相方から借りたお金を返さないため強制執行になる。轟木はプールのある豪邸に住みお金にも困っていないにもかかわらず、なぜかのらりくらりで借金を返そうとしない。執行に出向いた小原にも何百万という金を小銭で返そうとしたり、一万円札をばらまいて拾わせたりの嫌がらせをし、見ていて非常にイライラした。この回であやうく脱落しそうだった。

 

短気な私が、毎回登場する犬の可愛さや出演者の好演に助けられて脱落せずに見続けるうち、だんだん内容が充実してきて、昨日の第六話など社会批判も盛り込まれてとても良かった。

 

教員として長年真面目に働いてきた佐久山(でんでん)は、孫の真琴(毎田暖乃)とマンションで二人暮らしだ。妻はすでに他界、借金を作った息子が勝手に佐久山のマンションを担保にしていたため、競売にかけられ明け渡さなければならなくなるが、それに納得していない佐久山は頑として退去要請に応じない。

 

退去の強制執行が近づく中、佐久山は孫に言う。

”おじいちゃんはこれまでずっと真面目に生きてきた。おばあちゃんとコツコツお金をためて、分不相応なぜいたくもしないできたが、真面目に生きてきたら損するだけだ。政治家を見ろ。大企業のお偉いさんも、どんな悪いことをしても「知りません」「存じません」「もし真実ならまことに遺憾です」なんて嘘を言ってごまかせば、いつの間にか罪なんかなんにもなかったことにできる。(自分たちも)なかったことにすればいい。しらんぷりしてれば、きっとなんにもなかったみたいにできる”

 

しかし、強制執行は始まり、どんどん佐久山の家から物が運び出される。怒り狂った佐久山は執行官の事務所に現れ暴れるが、事務官の栗橋(中島健人)に「大変なのはあなただけではありません。一番の被害者はこのマンションを買ったご夫婦です。何の責任もないのに、強制退去の経費まで払わなければなりません!」と言われ目が覚める。

 

昔から、脱税やら汚職やら社会の上の方にいる人の犯罪は絶えなかったけれど、この10年ほど、たくさんの「佐久山」を生んだ時期はないのではないかと思う。もう上から下まで、この世の中はすっかり腐敗が進んでしまった。どんな儲け方をしようが、お金を稼いだものが「正義」。どんな屁理屈だろうが詭弁だろうが、論破(相手を黙らす)したものが「正義」・・・。

 

少し前まで「成金趣味」とか「卑怯」とか「弱い者いじめ」とかいった言葉がそれなりに生きていたと思うのだけれど、昔ならそうした批判の言葉の対象になったような人たちが、いまやすっかり「勝ち組」扱いで、金のないものや少数者は社会の隅に追いやられ我慢を強いられるばかりだ。

 

真面目に生きる人、弱い立場の人に寄り添える人、間違っていることを間違っていると指摘できる人、そうした人たちが報われる世の中であって欲しいと願う。

 

 

【追記】

執行官チームの運搬担当者(笠松将)の親子関係で、宗教に入れ込む母親の問題(金銭と息子の結婚)も描かれていた。