『MIU404』の最終回の放送からすでに半月が過ぎたというのに、MIUのことを思うと、いまだに胸がキュッと収縮しざわめいてしまう。
それくらい入れ込んで視聴し、心に残った素晴らしいセリフも多々あるこのドラマだが、なかでも私の胸に一番深く突き刺さったのは、2019年10月のシーンで、クズミが仲間とおぼしき相手とスマホで話したセリフだ。
「来月チケットの第2次販売始まるでしょ。開会式、200万でも買うっていう人おるんですわ。会場ん中、もう金持ちしか入られへん。」
この場面でクズミの背景には、「復興五輪に向けて無償のボランティアを募集しています」というニュースを伝えるテレビ画面が映っている。
スポンサーがつき巨額のマネーを動かして暴利をむさぼりながら、末端の善意の人たちを無償ボランティアとしてこき使おうとする「巨悪」の存在を、クズミと対比させて見事に描いた名場面だ。この1シーンだけでも、このドラマの価値は絶大だと思う。
その巨悪を思えば、クズミすらとうてい憎む気にはなれない愛すべき小悪党(殺人も犯しているが)に見えてしまう。名を聞かれて「クズミ、五味、トラッシュ、バスラー、スレイキー」。どこで育った?という問いには、「何がいい?不幸な生い立ち?ゆがんだ幼少期の思い出、いじめられた過去、ん?どれがいい?俺はお前たちの物語にはならない」と答えるクズミ。
ドラマの中のクズミのせりふから、10年前に泥水に全てを流されたらしいと知り、しかも彼が関西弁であることから、兵庫県に甚大な被害をもたらした平成21年の台風9号の被災者ではないかなどという、シャーロックホームズばりの名推理までネット上には登場した。
しかし、その推理を導いた「神様は一瞬で何もかも・・・」と言ったクズミの言葉自体が彼の実体験である確証はなく、やはり彼については一切が霧に包まれたままだ。その謎だらけのクズミという犯人が、菅田将暉くんという演者を得て、観た人の心に鮮やかに深く刻み込まれた。
当初私は、この引き締まった素晴らしいドラマが、拡大版にするために最終回だけ少々夢オチ部分で冗長に流れたのではないかと感じた。けれども、何度か見直してみて、やはり最後まで実に計算されつくしていたのだと理解した。
日々ニュースとして消費される社会の下層の人びとに毎回焦点を合わせ、ニュースとなる事件に至る背景を描いて見せ、深く考えさせた『MIU404』。政治をつかさどる方々に視聴を薦めたいところだが、おそらくあの人たちはこのドラマを見ても、素晴らしさを感じ取る「心」がないのではないかと思われる。
かくしてこの国は、ますます太るものはさらに肥え太り、弱いものはさらに搾取され自助を求められる国になっていくのだろう。
クズミの背景に映っていたニュース画面。
菅田将暉君のクズミに痺れる。 (Real Soundさんのサイトより)