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それぞれの中の少年を呼び起こす『小学五年生』重松清著

「それぞれの中の少年を呼び起こす」と書いたが、世の中には、この人は自分が子供だったことなど絶対にきれいさっぱり忘れているな、と思わせる人もいる。そういう人には、きっとさすがの重松氏のこの名作も響かないだろう(永田町あたりにはザクザクいそうな気がする)。

 

266ページの本に17編の短編が収められているので、一つ一つは非常に短い作品なのだけれど、どれも心に深く響き、確かな手ごたえがある。ユーモラスなものもあるが、胸を締め付けられ、思わず涙してしまうものも少なくない。重松さんは、今も繊細でみずみずしい少年の心を持ち続けている方なのだなという思いを深くする。

 

タイトル通り、17編すべて主人公は小学五年生の少年である。この年ごろは、周りの女の子が急激に大人っぽくなっていき、男子の中にも大人の世界の半端な知識を持ち込むちょっとませた子が出始めたりして、心がざわざわする時期だろう。そんな年ごろの少年たちの心の動きが詰まっている。

 

どれも甲乙つけがたい素晴らしい作品ばかりだし、17編すべてのあらすじを書くのも大変なので、できれば興味のある方には是非お読みいただきたい。父親の転勤で転校した少年が、母親の再婚で姓も変わり、自分と同じようにやはり転校することになった少女への淡い思いを綴った冒頭の「葉桜」一編を読むだけでも価値があると思える一冊だ。

 

 

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