あとは野となれ山となれ

たいせつなものは目に見えないんだよ

ジュリーに励まされる女性たち『あなたがパラダイス』平安寿子著

以前、私の好きなガテン系の職場を舞台に描いた物語を読んで、好感を持っていた著者の作品だ。明るくて、元気が出る作品だった。ネットの情報によれば、田辺聖子佐藤愛子の両巨頭以後、今もっとも軽妙なユーモア小説の書き手として注目」(朝日新聞出版)とか。

 

yonnbaba.hatenablog.com

 

今回の作品は、更年期という時期を迎えて困惑する3人の女性を中心に、連作短編集のような形で物語が綴られる。独身で図書館司書の敦子はタイガースが日本を席巻した時代から、沢田研二というボーカリストで「一等賞」を連発した時代を経て、コンサートで自然体の姿を見せながら歌手として魅了する現在のジュリーまで通しての熱烈なファン。まどかはかつてタイガースのジュリーのファンだったけれど、大人になり結婚したりする中でいつのまにか忘れてしまった、まあ「普通の」ファン。そして優等生タイプだった千里はジュリーの全盛期には、どちらかと言えば周囲に反発して覚めていた人だ。

 

テレビの露出が無くなってからも、ジュリーは精力的に新しい曲を作りコンサートを行って、ファンを魅了し続けている。年を重ねることでその歌詞には人生の悩みや苦しみも歌われ、それが非常に説得力のあるものらしく、更年期という女性にとっては精神的にもつらい時機を、三者が三様にジュリーに励まされて乗り越えていく。

 

更年期はちょうど親の介護問題も発生してくる時期で、千里はさらに、欲しくても子供ができずそのために離婚することになって深く傷ついている。まどかは自分の親にも夫の両親にも介護の必要が生じる。敦子の母はまだ元気だが、少々毒親の傾向がある。

 

全編にジュリー愛があふれていて、著者は相当なジュリーファンかと思ったが、先にこのテーマで書くという構想があって、ジュリーについては取材して書いたとのことだ。ファンならたまらないだろうし、ファンでなくても、この作品を読んだらきっとジュリーの動画を検索して観たくなってしまうだろう。

 

『あなたがパラダイス』の「あなた」はジュリーだった。けれども、それはジュリーでなくても、韓流アイドルでもなんでもいい。要は、何か夢中になれるもの、心を動かす対象がパラダイスとなるということだと思う。

 

老けない人は好奇心が旺盛だともいう。体を動かすことは大事だが、心が動かなくなることも非常にこわい。子供の頃からあまり何かにとか誰かにのめり込むということのなかった私は、気をつけたいと思う(でもなぜか近頃、朝ドラの岡田将生くんや『タカラのびいどろ』の岩瀬洋志くんなどを見て、うっとりしてしまうので、これは良いことだろうか)。

 

「猫の楽園」と言われている島 (sippoさんのサイトより)