テレビ東京の深夜ドラマで『亀も、青春は短い』というものがあった。秋ドラマのスタートにしては早い。タイトルからしてこれから売れそうなタレントさんを使った、若者層向けのものかとも思ったが、まあ面白くなければ見るのをやめて消去するだけだと思い、いちおう録画した。
そうして今日見てみたら、意外にもこれがなかなか面白かった。「テレビ東京若手映像グランプリ」で、優勝した作品なのだそうだ。
主人公の長谷川くんは亀、である。で、この亀くんが思いのほか芸達者(!)で、結構その場面に適した動きを見せるのには驚いた。そしてその愛くるしさにすっかり魅了されてしまった。
高校生の長谷川くんは、当然ながら行動が非常に遅い。けれども周囲もそれを当たり前のように受け入れ、長谷川くんの個性ととらえている感じだ。
学校から帰宅した長谷川くんが、お母さん(安藤玉恵)に「お使い頼んだもの買って来てくれた?」と聞かれたシーンで、首をすくめたのには笑ってしまう。いかにも「あっいけね、忘れた!」と言わんばかり。
始めのうちこれは比喩表現で、どこかで人間のキャストに変わるんだろうと思って見ていたのだけれど、終始主役は「亀の長谷川くん」なのだった。
たった30分の短い作品なのだが、「自分のペースで生きれば良いのだ」というメッセージもちゃんと伝わってきて、良い作品になっていた。
暖かそうな丘で日向ぼっこする2匹の亀に、「蒼」「凛」と名前を記したラストシーン。この2匹の亀さんが主役を交替で演じたのだろうか。彼らの名演に拍手を送る。
お金を掛けなければ面白い作品ができないというわけではない、ということを見事に証明した作品だった。
クライマックスで流れるTHE BLUE HEARTSの「人にやさしく」や、ドラマの中の国語の時間の場面で、学んでいる作品が中島敦の『山月記』というのも洒落ていた。
ドラマに亀がペットとして登場したことはたびたびあるが、さすがに主役は初めてだよね。