あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

これが日本の宿痾かも『花のさくら通り』荻原浩著

タイトルは暗いが、この作品自体は明るく楽しく温かい気持ちになる物語だ。ただ、描かれているテーマ、さくら通り商店街の抱える問題の根っこは、日本のあらゆる分野に巣食っている深刻な病ではないかなと思う。

 

物語りは、不況のため都心のオフィスから都落ちしたユニバーサル広告社が、近郊の寂れた商店街のなかの和菓子屋・岡森本舗の2階に引っ越すことから始まる。その商店会のポスター制作をきっかけに、いつの間にか商店街の活性化プロジェクトに関わっていくことになり、一癖も二癖もある商店会の店主たちに振り回される。

 

町を狙う謎の放火犯との闘いや大手スーパーによる猛攻撃、さらには寺の息子と教会の娘の「ゆるされざる恋」、新しい取り組みをことごとく潰そうとする商店会の古株たちとのバトル・・・。果たして、さくら通り商店街に明るい未来は訪れるのか? 

 

主人公は広告社のコピーライター兼CМプランナーである杉山だけれど、登場人物がみな個性的かつ魅力的で、誰を主役にしても面白いドラマが作れそうだなと考えながら読んでいたら、なんだか既視感を覚えた。そうだ、何年か前に楽しく見ていたテレビ東京のドラマ『ユニバーサル広告社~あなたの人生売り込みます!~』だと気が付いた。

 

調べてみるとやはりこのドラマの原作はこの作品だった。しかもこの作品はシリーズ物で、このさくら通りは3作目であり、ドラマの方は2017年の連ドラ以前に、シリーズ2作目の『なかよし小鳩組』をもとにスペシャルドラマが放送されていた。

 

スペシャルドラマの方は見ていないけれど、連ドラは、原作の小説とはだいぶ登場人物が違うものの作品に流れる温かさは変わらず、今も心に残っている。だからこそ、この作品を読んでいて蘇ってきたのだと思う。

 

長年続く商店会のイベント、6月のさくら祭りをなんとか盛り上げ、客足の遠のいた商店街を活性化させようと、ユニバーサル広告社のメンバーや若手(と言っても40代50代が多いのだが)の店主たちが奮闘するが、商店会の重鎮たちは、新しい取り組みが成功すれば、それは長年幹部にいた自分たちの無力を証明することになるため快く思わず、ことごとく横やりを入れてくる。

 

この問題は、政治を筆頭に、経済や教育など日本のあらゆる分野に起きている問題と同じではないかと思った。デジタルやITの何たるかも分かっていない高齢政治家や経済団体の偉いさんがたが、過去の栄光にとらわれて、世界からは周回遅れの日本にしてしまっている。このままでは「日本国商店会」は寂れる一方だ。

 

街(日本)の明るい未来のために、損得抜きで各自の才能を発揮するユニバーサル広告社(政党)と、それを全力で応援する商店会メンバー(市民)が必要だ。今は暗い雲に覆われた感の強いこの国だけれど、なんとかこの物語のようにハッピーな展開に持っていきたいものだと思う。