あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

温かさとひりひりする寂寥と『さやかに星はきらめき』村山早紀著

また良い本に出合えた。今よりはるか未来の、すでに地球は人類が住めない星になってしまい、月を始めとする宇宙のあちこちに移住して、ネコビトやイヌビトやさらにヒトとはまるで違った異星人とも共存するようになった時代のお話。そうSFファンタジー小説だ。

 

著者は児童文学作家のようなので、この本も若い読者のために書かれたのかも知れない。この本の「あとがき」でも、ご自分が少女時代に愛読したハヤカワSF文庫やサンリオSF文庫に触れ、深夜ふとTwitter(今のX)に『昔のSFみたいなお話を書きたいな』と呟いたことからこの本が生まれたと書かれている。もしかしたら、私はこの本の最高齢読者かもしれない。

 

母なる星地球が生物の住めない惑星と化し、人類と共に地球を離れた犬猫は、新しい人類ネコビト・イヌビトとなり、「古き人類」ヒトとともに星の海で暮らしている。月に住むネコビトの編集者キャサリンは、新聞社の記念事業として興された出版社で“人類すべてへの贈り物になるような本”を作ることになり、イヌビトである副編集長とともに、宇宙で語り伝えられるクリスマスの伝説を集め始める・・・。

 

第一章 守護天使 はるか遠い星で開拓民の少女に“神様”が見せた奇跡。

第二章 虹色の翼 歌や映画、ドラマを載せて銀河を駆ける宇宙帆船の誕生秘話。

第三章 White Christmas かつて遊園地の案内係だった壊れかかった少年ロボットと、世界中の誰もが知っているあの「おじさんの人形」との交流。

第四章 星から来た魔女 美しい山里の小さな図書館の司書琴子のもとに、長い重そうなコートをまとった女性が訪れる。古い知り合いを探していると。

最終章 さやかに星はきらめき 不幸な境遇の少年たちが集まって宇宙海賊を気取っていたが、ある輸送船を襲ったのをきっかけにまともに生きようと決める。ところがこれまでの悪事の罰があたったように思わぬ事故に遭う。不思議な幽霊船の話。

キャサリンが作る本に収める話という形を借り、5つの連作短編集のように編まれた物語。

 

天災や疫病の大流行のあと、人類がいがみ合い争った末に、母なる地球は生物の住めない星になる―現在の世界のありようを見れば、悲しいけれど大いに考えられること。キャサリンは月の上空に作られた樹脂のドームごしに、いつもその青い星を眺める。行ったことも見たこともない星なのになぜか懐かしい思いを抱きながら。

 

物語りは全て優しく美しいものばかりなのに、私の心にはつねにひりひりするような哀しみがまとわりついていた。このまま行ったら、本当に私たちは、地球は、こうなってしまうかもしれないという哀しみだと思う。

 

地球とか太陽系どころではなく、生物が「銀河連邦」としてまとまっているこの物語の世界は、たいそう知的で平和で穏やかだが、そこに至るまでにどれほどの悲しみがあったかが、5つの物語からもうかがえる。できることなら、そうした多大な犠牲を払うことなく、この穏やかな世界に行きつきたいものだと思う。そんな思いを深くさせる読書となった。