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8か月越しの本『お探し物は図書室まで』青山美智子著

昨年11月にリクエストした。ネットで検索して何十人も順番待ちしていると知ってはいたが、それでも、途中で忘れられてるのでは?と心配になって、市民館で確認してしまった。それがこの本『お探し物は図書室まで』である。

 

借りていた本を返却に行ったとき、「ちょうど今お電話したところでした」と市民館の窓口でリクエスト本の到着を知らされ、その日は閲覧室までは行かず、この本だけをいただいて帰った。

 

帰り道、私は本と小さな猫や飛行機、カニ、地球のあしらわれた可愛らしい表紙を眺め、そしてやっと出合えた本を抱くようにして歩いた。

 

 

一章 朋香 二十一歳 婦人服販売員

二章 諒  三十五歳 家具メーカー経理

三章 夏美 四十歳  元雑誌編集者

四章 浩弥 三十歳  ニート

五章 正雄 六十五歳 定年退職

 

この5つの物語から成っていて、各話の主人公が他の物語では脇役として登場したりしている。そしてすべての物語に共通して登場するのが、羽鳥区のコミュニティハウスに設置された図書室の、レファレンスコーナーに鎮座する司書の小町さゆりさんと、司書を目指すスタッフの森永のぞみちゃんだ。

 

どの話の主人公も、今自分がいる場所にしっくりしないものを感じている。それどころか、悩んでいる人も投げやりになっている人もいる。ふとしたことからコミュニティハウスの図書室で本を借りることになり、司書の小町さんから参考になる本のリストを貰うのだけれど、なぜかその最後には間違いとしか思えない毛色の違う本が記載されている。そして不思議の極めつけは「本の付録」と言って渡される、羊毛フェルトの小物である。

 

狭いレファレンスカウンターの中で、小町さんは寸暇を惜しむようにして羊毛フェルトの小物を作っているのだ。小町さんは名前とは対照的な大柄な女性で、ある登場人物は「ゴーストバスターズマシュマロンだ」と思い、また別の登場人物は「ディズニーのベイマックスみたい」と思い、またある人は「早乙女玄馬のパンダみたいな人」と思う。

 

早乙女玄馬(らんまの父。水をかぶるとパンダになりしゃべれなくなる)のパンダ

 

なんとも迫力満点という印象の小町さゆりさんだが、司書としてのレファレンス能力は卓越しているし、それぞれの人への最後の一冊のおかしな本の選び方も、そして付録の羊毛フェルトも、登場人物たちの生活に不思議な変化を与えていく・・・。

 

三十社くらい落ちまくった末に採用となったスーパーに就職し、投げやりな生活をしていた朋香が、小町さんのレファレンスで気づきを得て、自分の生活と丁寧に向き合うようになる初めの章から心を射抜かれてしまった。

 

著者の人生とか人間を見つめる目が温かいのだろう。それが小町さんに投影され、それぞれの人の気づきと変化を生んでいく。校正もれもあったり、言葉の選び方に若い人らしさを感じたりする部分もあるが、それよりも何よりも、大発見や大変身があるわけではないながら、登場人物たちが小町さんのレファレンスに出合って、明らかに昨日までと違う、希望ある日々を生き始めるのを見守るのがたまらなく嬉しい。

 

巻末には作中に出てくる実在する本の一覧もあり、読んでみたくなる本がいっぱいだ。本好きでもそうでなくても、この暗い世の中に、ほのぼのと心が明るく温かくなる読書だった。