あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

うつくしが丘の不幸の家

つるひめさん(id:tsuruhime-beat)が以前紹介していらした『うつくしが丘の不幸の家』が面白そうだったので、市民館にリクエストしていた。それが届き読了した。

 

tsuruhime-beat.hatenablog.com

 

第一章 おわりの家

理容師譲と美容師美保理のカップル。海を見晴らすうつくしが丘に築25年の3階建ての家を買いリフォームして店舗兼住宅にするが、美保理は近所の主婦からここが不幸の家と呼ばれていると知らされる。縁起が悪いという庭の枇杷の木を切ろうと眺めていると、隣家の老女荒木信子に声を掛けられ、前の住人のことを聞く。枇杷の木のたくさんの効能も。

 

第二章 ままごとの家

夫義明に浮気された妻多賀子。高校生の息子雄飛は成績上位ながら、年上の女性を妊娠させ進学せず父親になる選択をし、夫は激怒するがもうおろすこともできない時期と知り、結局大学を終え就職するまで妻子を含め面倒を見ると言う。相手の19歳の女性樹利亜がすばらしい。雄飛の姉の小春(やはり進路で父親と衝突し家を出ている)も。

この章で小春が押し入れに書かれた「おんなのおはか」という落書きを発見し、第一章に出てきたおかしな位置に打たれた釘とともにミステリー色を高める。

 

第三章 さなぎの家

高校の同級生叶枝(かなえ)と、紫(ゆかり)その娘響子は小2。30手前でそれぞれの事情(叶枝は男に騙され紫は夫に追い出された)から同居することに。ふたりの高校の先輩蝶子が、空いているという家を1年間の約束で貸してくれたのだ。そこへ愛人に逃げられた紫の元夫がやって来て暴れ、それを機にそれぞれの道に歩み出すことに。

 

第四章 夢喰いの家

後輩2人に家を貸した蝶子とその夫忠清。夫に問題があって不妊。4年間の不妊治療に疲れ、夫は10歳も年下の妻を思いやって離婚を求める。隣家の老女信子はあてもなく散歩している時に忠清に勧められお茶に寄り、自分に問題があって子ができなかったと話す。信子は夫に懇願し他の女性に夫の子を産んでもらった。が、罪の意識で今は息子とは微妙な関係だと言う。その息子幸太郎も自分のせいで不妊。若い頃は母親の選択を責めたがやっと信子の気持ちが分かったと言う。母を探しに来た幸太郎を信子のいる部屋に案内し、忠清は二人だけで話し合う時間を持たせる。

第一章で、また信子と話すのを楽しみに引っ越しの挨拶の品を持って隣家を訪れた美保理が、信子の急な転居を知って驚く場面があるが、ここで腹を割って話し合って分かりあえ、信子は息子の家に越していったのだろう(引っ越してきたばかりの美保理たちには挨拶は要らないと判断した?)。

 

第五章 しあわせの家

真尋は働いていた居酒屋の客健斗とその連れ子惣一と暮らしている。健斗は運送会社の社長ということだったが実はトラックを持って一人で運転手をしていて、稼ぎはほとんど飲み代にしてしまう横暴な男。だが惣一は聡くて優しい子だ。母親と弟の3人で親戚に滞在しているという「ユズくん」と仲良しになる。

乳歯が生え変わる年ごろの惣一の「家なんてただのいれものだよ」の言葉に真尋はハッとする。惣一はマイホームのために母も働くようになり、妻の収入をあてにして仕事をさぼりがちになった夫に愛想をつかして妻は逃げ出した(あとで惣一を連れて行くことは健斗が許さなかったとわかる)ため、結果として母親を失うことになったのだ。

 

エピローグ

『髪工房つむぐ』がオープンして3年。積極的ではない性格の譲が「うつくしが丘祭」の運営委員をしている。美保理のお腹には赤ちゃん。ある日髪工房を訪ねてきた男は「すみません、客ではないんです。昔住んでいた家を見たくて来ました」と言う。裏の庭の枇杷の木も大きくなりましたねと・・・。

 

 

各章にさまざまな人物が登場する。親の愛に飢えて育った人は自分を責めたり、美しい家さえあったら違っていたのにと、家に過剰な思い入れを持ってしまったりしている。また、はたから見れば何の不足もないように見える人も、実は大変な重荷を抱えていたりする。

 

不穏なタイトルと不穏なエピソードでドキドキと読み始めた読者は、読み進むにしたがってしあわせな肩すかしを味わうことになる。そうして、しあわせとは家とはということが全編を通して問われる。ほぼ全編に登場する信子さんの柔らかな存在も大きい(やっぱりお料理好きなおばあちゃんになりたかった!)。エピローグで枇杷の木がつなぐ意外な縁にまたニヤリとしてしまう。

 

いつも楽しい本を紹介してくださるつるひめさんに感謝です。