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弱いヒトの強い生き方『黛家の兄弟』砂原浩太朗著

黛家は、北国の支藩とは言え、神山藩の筆頭家老を代々務める家柄で、三千石の大身である。その黛家の栄之丞・壮十郎・新三郎の三兄弟の物語で、三男坊新三郎の十七歳から、十三年後までを描く。

 

私が15年暮らした津軽弘前城を思わせるような桜堤で物語は始まる。藩祖が植えた桜が百五十年たって他国にまで名を知られる名所となり、まさに花見どきとあって多くの人でごった返している。

 

三兄弟と、新三郎の友人である由利圭蔵が堤を歩いていると、大目付黒沢家の美しい娘りくと出会う。三兄弟とりくは幼馴染なので言葉を交わしているところへ、酔った若者たちが絡んでくる。これが因縁の始まりだった。

 

若者たちは次席家老漆原家の嫡男を中心とする「雷丸(いかずちまる)」を名乗る集団で、花街周辺で狼藉を繰り返している。壮十郎を中心とする「花吹雪」とは、出くわすたびに喧嘩になり反目しあっているが、やがてそれが壮十郎を追い詰める運命につながっていく。

 

お家の跡目騒動や家老たちの権力争い、上士と下士の葛藤、男女の思いの行き違い、武士も農民もない下級の者の暮らしの困窮など、さまざまな争いごとや醜いことが起きる。これはこの時代の、新三郎の周辺だけのことではなく、そもそも人が生きるということは、ままならないことや苦しいことを避けては通れないものなのだろう。

 

400ページほどの物語なのだが、とてもそれだけとは思えない重厚さで、深い読後感に満たされた。それは、どの登場人物も単純に善人・悪人という一面的な描き方をしていなくて、それぞれが物語の中で呼吸ししっかり生きているからだろう。

 

人生の岐路に立った時、重大な選択を迫られた時、とかく楽な方を取りたくなるけれど、そこでどちらへ進むかで、その後の人生は大きく違っていく。迷ったときは困難なほうを選べという言葉があるが、この主人公新之助はそうして常に少しずつ辛抱し、自分を抑え、結果、大変なところにたどりつく。

 

 

ヒトというものは、武器を考えださねば実に弱い生き物だった。精神面でも、なまじ半端な知恵があるばかりに、ついつい楽を選び、やすきに流されてしまう。動物なら、面倒だから狩りをサボろうとは考えないだろうが、ヒトはなんとか楽な道を探そうとしてしまう。

 

そんな弱いヒトも、信じるものや仰ぐ人や愛し守りたい人のために、かく強く生きることができると、励まされるような物語だった。初めて知った砂原浩太朗という著者。素晴らしい書き手だった。ワクチン接種の副反応で、ただダラダラと終わりそうだった週末の数日を、感動の読書体験に変えてくれた。

 

 

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単行本はまだ本書を含め3冊しか出ていないけれど、今後が非常に楽しみ!