春・夏・秋・冬と4冊出ているシリーズ物の短編集『季節風』のうちの一冊らしい。産経新聞で連載された作品を、2008年のそれぞれの季節に出版している。装丁は「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」を象徴する、青・赤・白・黒を基調としたデザインとなっているとのことで、今回私が読んだ作品は白を基調にごく淡いグレーが配されている。装丁にも中身にも興味がわき、他の季節も読んでみたくなる。
出版社のホームページに掲載されている、担当編集者の紹介文:
暑気が通り過ぎて空が澄んでくると、どこかもの寂しい季節がやってきます。シリーズ最新刊に描かれているのは、夏の名残りの花火にあがる少年たちの歓声や故郷の家を片付けているときに見つけた子どものころの愛読書など、胸にしみいる12の秋の情景。なにげない光景がもたらす幸福をどこかに隠し持った物語ばかりです。偉大な人物ではないけれど、よくすれ違う誰かにまた記憶の中の家族や旧い友だちによく似た愛すべき人物が大勢登場します。ひと恋しい季節にぴったりの1冊です。
オニババと三人の盗賊
城北小学校の子供たちが買い物をする馬場文具店は、店番のばあさんがとんでもなくこわい人で、子供たちはオニババ文具店と呼んでいる。それでもその店に行くのは、町内に一軒きりの文具店だからだ。
買うものを迷っていても、手に取ってみた商品をキッチリ元の場所に戻さなくても、お菓子を食べて汚れた手で店に行っても、オニババはたちまち怒鳴りつける。そんなオニババ文具店で三人の少年が花火を万引きするという事件が起きた。
なぜ三人の少年が万引きをしたのか、そして気難しいオニババがどう対処したのか・・・その展開が素晴らしい。冒頭のこの作品が特に良くて、しっかり心をつかまれた。
この他にも、転校する女の子の寂しさや不安が、新しい学校で出会った友達のおかげでゆるゆると解けていく様子を描いた「サンマの煙」や、故郷を離れて都会で暮らす息子が、大型台風の直撃予報に怯える母に頼まれて実家に戻り、脳梗塞の後遺症で体が不自由になり、かつての強い父親の片鱗もなくなってしまった父への思いを綴った「風速四十米」など、しみじみと心にしみる作品が続く。