2023年の読書を、このシリーズから始められて嬉しい。
数日前、市民館からリクエストしていた本が届いたという電話をいただいた。市民館が通常業務を始めてから、何度か本を借りに行こうかと考えたけれど、何となく行かずに録りためた年末年始のドラマなどを見て過ごしていた。
さすがにそろそろ本を借りようと思っていたところへの電話で、なんと良いタイミングであること。昨年からずっと心を奪われている、この清らかな若侍ゼンの物語で今年の読書を始められるとは、今年の読書が祝福されている証のようでとても嬉しい。
まずは非常に美しい満開の桜の山の装丁に、物語への期待がさらに高まる。このシリーズはどの作品も装丁が素晴らしいが、本作の桜は、このシリーズの(いちおうの)最終巻ということで、有終の美を飾るにふさわしいし、主人公ゼンの到達する境地を祝福するようでもある。
「Quench」とは抑制するとか消すという意味らしいが、それがこういうことだったとは!と驚かされる。前巻まででどうやらゼンがかなり高い身分の生まれらしいとまで分かって来たのに、いきなりプロローグで大勢の賊に襲われ、しかもいままでのどの相手よりも腕の立つ仮面の男にゼンは切られ、崖から落ちてしまう。
人里離れた山の中でひっそりと暮らす女と少年に救われ、なんとか命を取り留めたゼンはしかし、それまでの記憶をすべて失ってしまっていた。
ここからどうやってゼンがなくした刀を見つけ、記憶を見つけ、剣や自分の生きる道を開いていくのか・・・。
今回もゼンの人間としての素直さや素朴さの描写部分と、ひとたび剣を持った時の厳しさ、勝負の場面の描写の、そぎ落とすだけそぎ落としたような文体の対比が見事だ。
物語りの大きな展開はかなりの読者にとって読めてしまうものかも知れないが、この物語の一番の魅力は何と言ってもゼンの人としての魅力だと思う。5巻も読んできても、まだまだゼンの生きるさまを見続けていたいと思う。
著者はこの5巻をもって一応の完結と言っていて、いつか続編を書くかもしれない含みを持たせているようなので、会えるものならこの魅力的な若者にまた会いたいものだと思う。
1巻から4巻まで