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大和撫子と男装の麗人と激動の満州『俳風三麗花 草の花』三田完著

このところ敗戦時のソ連軍の登場する読書が続く。承知して読んだのは井上ひさし氏の『一週間』のみで、あとは偶然だっただけに、ちょっと因縁めいたものを感じる。

 

今回の作品も、ただ宇野亜喜良さんの装丁と、昭和初期という時代設定で美しい文章であることにひかれ、先の戦争に絡んでいるとは思わないで手にした。

 

本作には4年早い2007年に『俳風三麗花』という前作が出版されていて、こちらの『草の花』はその続編として2011年に出版されている。そんなことは全く知らず読んでしまったが、最初のうち、三麗花の一人である芸者の松太郎さんを男性と思い込んで読んでいたくらいで、なんら問題はなかった。

 

物語は、昭和10年春、ヒロイン池内壽子(ひさこ)の東京女子医学専門学校(現在の登場女子医大)の卒業式のシーンから始まる。壽子は恩師の教授から「俸給は良いし、規模も設備も東洋一の満鉄大連病院に、留学するつもりで二、三年行きませんか」と声をかけられていた。

 

女子医専の先輩も赴任しているというので、思い切って行くことにした彼女のために、秋野暮愁先生の主催する句会の仲間たちは、彼女の最後の例会ではなむけの句作をする。

 

関東大震災から十数年の頃(壽子は震災で両親を亡くし叔母に育てられた設定になっている)だが、このころの世の中の描写は大正浪漫の優雅さをたたえ、「たられば」を考えてもせん無いことながら、もしもあの愚かな戦争をしていなかったら、今この国はどんな80年、90年後を迎えていたのだろうかとつい思ってしまった。

 

美しく壮麗に建設された大連で、良き人々に囲まれて働き始める壽子。実際の歴史上のできごとや、川島芳子甘粕正彦などの実在の人物と交流しながら話は進む。のどかな中に、しだいにきな臭さが漂い、やがて激動の時を経て敗戦へ・・・。その合間に俳句を挟み、句会の様子が描かれる。特段俳句好きでなくても、興味深く楽しめる。

 

多くの人々の苦労や努力ののちに、女性がさまざまなくびきからやっと解放されつつある現代、女が「女らしかった」この時代を懐かしむのは顰蹙を買ってしまうかもしれないと重々承知してはいるけれども、やはり抑制のきいた言葉遣いや立ち居振る舞いを好もしく思う。自分は幸か不幸かすでにかなり自由な時代に育ち、まるで麗花とは程遠いゆえ、いっそう憧れが強い。

 

時代に翻弄される登場人物たち。大きなストーリーを楽しみながら、美しい日本語や繊細な俳句の世界も味わえ、期待以上の濃厚な読書の時間となった。

 

 

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