あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

未来に希望を見る『日本ゲートウェイ』楡周平著

明治初期、日本橋に創業した呉服屋を前身とする業界の老舗マルトミ百貨店は、バブル崩壊と同時に日本経済が陥ったデフレによって業績は瞬く間に悪化した。さらにネット通販による痛手に今回のコロナでインバウンド需要もなくなり、メインバンクから追加融資も断られて存亡の危機に陥っている・・・。

 

という具合に、まるで現実のデパートを思わせる描写に始まるこの物語。フード業界や富裕な高齢世代をターゲットに「楽しい老後」を謳うニュータウンなど、見事に現代の社会問題を掬い上げた内容になっている。

 

主な登場人物は、マルトミ百貨店の社長富島栄二郎、大手商社四井商事を辞め地方自治体の首長となり高級介護施設プラチナタウンを造った山崎鉄郎、そのプラチナタウンで悠々自適に暮らす牛島幸太郎、現在四井商事の幹部となっている徳田創、いまはそれぞれ違う立場にいるこの4人は四井商事の同期入社でもあった。

 

この4人に、店舗内の全テナントをひと月ごとに総入れ替えするという画期的な食ビジネスを始めた「株式会社築地うめもり」の有能な女性社員滝澤由佳が加わって、瀕死の百貨店を救い、同時に沈みゆく日本経済をも救う一大新事業の計画が進んでいく。

 

かつての「経済大国」の名称が空々しく感じるほど、現在の日本経済は小説のマルトミ百貨店同様惨憺たるありさまで、おまけにもともと二流だった政治がいまや三流かそれ以下という状況で、もうこの国は坂を下るばかりで未来には不安しかない。

 

日々そんな思いで次の世代の人たちに申し訳ないという気持ちばかりだったが、この小説を読んで、そうかこんな起死回生の策もあるのか、やり方によってはまだまだ日本も捨てたものではないのかも知れないと、暗いばかりだった未来に一筋の光明を見る気がした。

 

もちろんそのためには、優秀な人材や実行できる力を持った存在、そして「今だけ金だけ自分だけ」ではなく「未来のため真の豊かさのため人々のため」として働く政治家が必要ではあるけれど。

 

先日の『アストリッドとラファエル』のエントリーでも少し触れたけれど、まだまだ日本はたくさんの宝物を持っている。決して私は特別「日本スゴイ!」とは思っていないが、ガラパゴスのように、島国ゆえの独特の文化や民芸品が存在するとは思う。実際『アストリッド・・・』を見ていても、日本のイメージは決して先進何か国かの一員というより、「極東の不可思議な国(でも魅力的)」というとらえ方をされているように感じた。

 

コロナ前の何年か、政治もこの日本独特のサブカルチャーなどの魅力に気付いて、「クールジャパン」などと売り出していたようだが、如何せん、先見性も計画性もなくただ日本文化の切り売りになってしまっている感がある。ぜひ本作に描かれているくらいの壮大なスケール感をもって、沈みゆく日本を救ってほしい。