ネットフリックスで公開されている『ミッドナイトスワン』を鑑賞した。公開時結構話題にもなった作品のようだけれど、私は全く知らなかった。サイトのトップ画面で公開が知らされても、なぜか草彅剛さんに苦手意識のある私は見ようか見まいか迷っていた。まあ、嫌だと感じたらその時点で鑑賞をやめればいいのだからと思って見始めると、非常に引き込まれ見終わって深く感動していた。
草彅さんの演じる凪沙（武田健二）は、体は男として生まれたが心は女。新宿のニューハーフショークラブで働いているが、母親にも本当の自分のことは話せず、広島から電話が来ると男の声で応答している。凪沙はその母親からある日、育児放棄にあっている姪の中学生一果の面倒を見てほしいと依頼される。
叔父だと思って広島から上京してきた一果は女装の凪沙に驚くものの、人生そのものを投げ出しているかのような彼女の反応は薄い。そもそも凪沙を認めようとも受け入れようともせず、言葉さえ発しない。凪沙も「子どもは嫌いだから」と一果にそっけない。
そんな二人だったが、凪沙は一果が母の暴力に耐えるため心を閉ざし、そのストレスを抑え込むために腕を噛む自傷癖があることに気付き、彼女の孤独を知ったことで深く寄り添うようになっていく。
一果にはバレエの才能があり、凪沙は自分の体の手術のために貯めていたお金も取り崩し、苦しい生活の中で彼女を応援していくが、やがて一果は実母のもとに帰る時が来る･･･。
女装がぴったりはまり過ぎて女性以上に美しいほどの男優さんをこれまで何人も見たが、草彅さんは顔の輪郭といい足のラインといい、申し訳ないけれど女装が似合うとは言い難い（またあえてあまり美しく作り込んでもいなかっただろう）。けれども、だからこそこの役にはぴったりだったと言える。
凪沙が「なんであたしだけ、なんであたしばっかり･･･」とトランスジェンダーに生まれたことを呪ってうめく場面があり、本人が望んだものでもないのにそうした運命に生まれてしまった人々の苦しみが迫って来る。LGBTに無理解で無神経な言葉を平気で吐く政治家らに見てほしいと思う場面だったが、残念ながら彼らにはおそらく響かないことだろう。
大人や社会に対して不信感しかなく心を閉ざしていた一果ちゃんが、凪沙の愛を受けバレエで才能を開花させ、みるみる魅力的になっていく姿がまぶしい。
『ドライブ・マイ・カー』と同じようにちょっと「あれっ？！」と思うラストだったが、これも観る人それぞれが好きなように解釈すれば良いだろう。ニューヨークの街の風景が映った後、ハイヒールの足元がペイブメントから階段を上っていき、劇場の入り口に向かい、劇場の内部の描写で終わる。
エンドロールを眺めていたら、撮影協力として「豊橋市」「豊橋市公会堂」「ほの国芸術劇場プラット」の名前があった。えっ、どこで出てきたの？と思い調べると、なんとてっきりニューヨークの劇場と思って見ていたラストシーンの劇場の入り口が豊橋市公会堂だった。改めてラストシーンを見直して、映像の切り取り方のみごとさに舌を巻いた。大好きだし、さんざん見慣れていると思っていた公会堂に全く気付かなかった。
プラットの方は、どうやらそのあとの劇場内のシーンで使われているのではないかと思う。前市長がエンタメ好きだったこともあると思うが、豊橋市では各種メディアの撮影協力に力を入れていて、これまでも『陸王』『TOKYO MER』『リーダーズ』などたくさんのドラマや映画のロケが行われているが、思いがけなく『ミッドナイトスワン』ともつながっていた。エンドロールを最後まで見ていなかったら、全く気付かずに終わったことと思う。
画像を忘れていたので追加
