あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

仲間への叱咤激励か

昨年2月にBSで放送されたもののようだが、NHKスペシャル未解決事件『松本清張帝銀事件』を見た。

 

大沢たかお演じる松本清張と、要潤演じる文藝春秋の田川博一編集長を中心とするドラマに、実際の映像を加えている。

 

帝銀事件とは、1948年1月26日に東京都豊島区の帝国銀行(現在の三井住友銀行椎名町支店(1950年に統合閉鎖され、現存しない)に現れた男が、行員らを騙して12名を毒殺し、現金と小切手を奪ったという銀行強盗殺人事件だ。

 

この毒物が非常に特殊なものである上、16もの湯呑に短時間で均等に用意するには薬物の扱いへの慣れが必要と、警察は旧軍関係者(とりわけ毒薬に精通した731部隊関係者)に捜査を絞って行きつつあったらしい。ところが途中で捜査方針が急転換されて、画家の平沢貞通を犯人として逮捕する。平沢は取り調べで自白をするも、裁判では無実を訴え、獄中でも再審を訴え続ける。

 

この捜査方針の転換に、GHQの関与があったのではないか。松本清張氏はこのことを立証するためにさまざま手を尽くし、事実を知るであろう人たちに面会を求めていくが、ことごとく真相は闇に葬られ、裏が取れないまま、フィクションではあっても結末ははっきりできず不完全燃焼に歯がゆい思いをする・・・というものだった。

 

このドラマの中で、731部隊の人体実験でも、末端のおぞましい作業をさせられるのは下級の少年兵たちで、責任のある上層部は逃げおおせ、GHQに守られたことが描かれていた。だからこそ、その理不尽さに対する怒りが、そうしたことを暴くために起こしたのが、この帝銀事件だったのではないかというのが松本清張氏の推理だった。

 

 

ドラマの終盤で大沢たかお扮する松本清張が言う言葉。

「我々は人間性を失った。戦争とはそういうものだ。人間が人間でなくなる。しかしその人間性を奪ったやつらは誰だ。なかったことになどさせるものか。権力側の発表のみを無難に報じてきたマスコミの責任は?そのマスコミが醸成した空気に乗じて一人の人間を犠牲にする世論に責任はないのか。占領期を脱した今こそ、我々はその闇を追及すべきだ。そして書かねばならない。なぜなら、歴史は絶えず水の流れのように継続するのだから」

 

この言葉は、そっくりこのままNHKのドラマ部門の人たちから、報道部門への叱咤の言葉ではないかという気がした。権力側の都合に合わせた報道をし、そうして自分たちが醸成した空気に一般の人々をのせて愚民にする。報道は権力に押さえられ、そしてその権力は、敗戦後80年も経とうとするのに、本当に「占領期を脱し得た」と言えるのだろうか。このままでは水の流れのように継続する歴史に流され、再び悪夢に飲み込まれかねないのでは?と憂う。