あとは野となれ山となれ

たいせつなものは目に見えないんだよ

垣間見える人生

録画しておいた『街角ピアノ リバプール』(再放送)を観た。

 

リバプールは言わずと知れたザ・ビートルズの故郷だ。そのリバプールの市内最大のショッピング施設の広場に毎夏期間限定でピアノが置かれる。そのピアノを弾く人たちをとらえたドキュメンタリー番組だ。撮影は2022年。

 

まずは42年間働いた市役所を2週間前に退職し、年金受給手続きをしてきた帰りという68歳の男性が、ビートルズのレディ・マドンナを演奏。

 

地元の17歳の高校生はバンド活動をしていると言い、ギターの先生にビートルズを薦められて聴いたところたちまち魅了され、全アルバムを聴いたそうで、ヘイ・ジュードを演奏した。

 

演奏風景の合間に、現地で運行されているマジカル・ミステリーツアーと銘打つバスツアーの様子もはさまれ、ペニー・レインの歌詞に出てくる理髪店やストロベリー・フィールズ、ジョン・レノンが青春時代を過ごした家などの現在の様子が見られた。

 

22歳の新人看護師の女性は、看護学校在学中にパンデミックになり、実習がなくなって病院に派遣された。のしかかる重圧から救ってくれたのがピアノだったと語る。現在はもう看護師になって通常の業務をしていると言う。

 

33歳のイラン人の男性はある愛の詩を演奏。自由を求めて7か月前に亡命してきたと言う。ボート・バス・トラック・徒歩で35日かけてイギリスにたどり着いた。今は生活支援を受けながら暮らしている。祖国ではDJをしていたそうだ。親兄弟が恋しいが、ピアノが心を落ち着かせてくれ人生に前向きになれると言う。夢は音楽関係の仕事に就くこと。

 

生まれつき目と耳に障害のある15歳の少女。レット・イット・ビーを弾く。拡大して楽譜を読み、補聴器で音を聴く。人前での演奏が大好きだと言う。音楽は「今」の瞬間を楽しむもの。困難な状況でも、努力次第で解決できるとどこまでも前向きだ。

 

夫婦で旅行中の43歳の女性はウクライナの民謡を演奏。出身はウクライナで結婚後ブルガリアに移住。2022年2月ウクライナに帰省。その翌朝ロシアの侵攻という事態に。混乱の中、なんとか列車に乗って出国した。祖国に残る両親を心配する毎日。戦争中であっても、両親にとって自分たちの国や家などすべてを捨てるのは年齢的に難しい。とてもつらいけど・・・と語る。早く戦争が終わって平和になって欲しいと。

 

小学校教師だったという81歳の男性は、昔イギリスでもヒットチャート上位に入り、軽快で好きだと言うSUKIYAKI上を向いて歩こう)を演奏。退職後バンド活動をして楽しんでいると言う。在職中、生徒に「音楽なんてやっても仕事は得られない」と言われた時、「仕事は得られなくても、人生が得られるよ」と答えたと話す。なんと素敵な返し。

 

締めくくりは55歳のプロのミュージシャン。イマジンを演奏。ロックダウンで仕事が減り収入が激減した。それでも諦めず好きな音楽を続けてきた。人の心を一つにし、平和を願うこの曲が好きだと言う。

 

『72時間』といい、この『街角ピアノ』(他に駅ピアノもあり)といい、短いインタビューの中にそれぞれの人生が垣間見えて、非常に興味深く大好きだ。

 

 

イランから35日間かけて亡命してきたという男性。