あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

わけあり絵師とサバの縁を知る『鯖猫長屋ふしぎ草紙』田牧大和著

以前女性作家の時代小説アンソロジーで出合い、気になっていた田牧大和さんの「鯖猫長屋シリーズ」、その始まりとなる巻をやっと読んだ。

 

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縄張り外の野良猫を寄せ付けない堂々たるボスぶりばかりか、祭りの日に永代橋が落ちるのを察して、長屋の住人が出かけるのを阻止し、猫ながらその長屋の名前に冠されるほど一目置かれている珍しいオスの鯖三毛の猫サバ。

 

「鯖猫長屋」の住人で、三十代半ば風采の上がらない絵師をしてはいるが、スキのない能力と人に知られたくない過去を秘めているらしい青井亭拾楽。飼い猫サバは子猫の時に拾楽の前に現れたのだけれど、その前に彼には弟分のような男に託された猫がいた。

 

この拾楽と飼い猫サバを中心に、長屋に日々持ち上がる騒動を連作の短編で綴る物語。長屋の住人や差配、八丁堀の役人、拾楽の周囲に次々と現れる人物などが魅力的に描かれ、人間の欲得や恨みつらみ、そしてあやかしの世界も絡む事件を、拾楽とサバが解決していく。

 

どの物語も良かったが、とりわけ5話目の「アジの人探し」が胸を打った。アジというのは、サバが拾楽の前に現れたのと同じ大晦日に、拾楽の家の前で行き倒れていた大きな犬を、サバが弟分にすると言うので拾楽が保護し、サバにちなんでつけた名だ。

 

同じ長屋の住人で大道芸で身を立てる浪人が、人寄せのためにこのアジを借りて行って商売をすると、なぜかアジは芸を身につけているようで、ザルをくわえて人々の間を回り、普段の倍も稼げたと言う。その陰には前の飼い主との強いきずなが秘められていた・・・。

 

ろくにご飯も食べず、自分の身を細らせてこの世ならぬモノに対峙するサバといい、わが身の危険をものともせず、以前の飼い主の恨みを晴らそうとするアジといい、欲得に流されて醜く情けない人間とは対照的に、なんと美しくけなげなことか。登場する人物たちの弱い人間臭さと、人間に守られる立場の動物の凛とした強さの対比が面白い。

 

まだまだシリーズは続くので楽しみだ。

 

 

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江戸市井に生きる女と男『芥火』乙川優三郎著

私の乙川作品は現代ものから始まったと言えるが、元々は時代小説で頭角を現した方である。その時代小説で、時代小説大賞・山本周五郎賞直木賞を次々と獲得したあとの、2003年から2004年頃に「小説現代」に掲載された作品を集めた短編集だ。

 

身寄りのないかつ江は十七から水茶屋で働き、持ち前の器量で商家の主の妾となるが、病がちになった旦那から別れ話を持ち出される。すでに、来るかどうかわからない男を日がな待ち続ける生活にうんざりしていたかつ江が、それを潮に自分で店を持つ生き方を選んでしたたかに生きていくさまを描いた表題作の『芥火』。

 

魚油問屋の次男坊に生まれ、好きな小紋の型彫師の道を歩み始めながら、急逝した兄の代わりに家に戻って家業を継ぐことになった由蔵。商いは順調にいくが満たされない。ある日彼は、ほれぼれするような小紋を行きつけの料理屋の女将に見せられ、封印していた創作の熱がよみがえるのを感じる・・・『夜の小紋』。

 

十二から乾物屋に奉公に出され、若いころは親兄弟のために働き、嫁いでからは夫に尽くしてきた「いし」は、その夫を早くなくし、ひとり娘を嫁に出し六十を過ぎた今も、炭団や漬物の立ち売りをして一人で生計を立てている。娘が心配して一緒に住もうと言うが、少々寂しかろうと今の自由な生き方を貫こうとする彼女を描く『虚舟』。

 

三百俵の生家から三百石の旗本の戸田家の婿養子に入った新次郎。養親や妻に求められるのは、家を保つことだけである。実家での暮らしを思えばはるかに恵まれ安定した暮らしだけれど心は満たされず、ふとしたことから知った焼き物師の家に通い詰めるようになる。そこには彼と親子ほども年の違う娘がいて、師が亡くなったあと新次郎とともに焼き物にのめりこんでいく。夢と現実のはざまで悩む男の物語『柴の家』。

 

仏師の夫が広い家を求めたため、住み慣れた浅草から川向こうの寂しい北本所で暮らすことになった「さの」。ある日、自分が手放した若い日の着物を着た女が、櫛を万引きするのを目撃する。遠方の寺の仕事のため夫は家を空けることが多く、しかも芸者上がりの女までいたことを知ってむなしくなった彼女は、自分も少々艶な着物をまとってスリルを楽しむようになる。子のために夫婦の形をつくろって生きるのか、彼女の選択を描く『妖花』。

 

時代は江戸であるけれど、人の喜びや悩みは現代と変わりない。かろうじて家の体面とか長男次男といった問題は薄れたように思うが、今でもそれなりの家になれば、重要なことなのかもしれない。描かれているのは男女比が2:3ではあるが、読み終えて印象に残ったのは女性の強さ、であった。一人なら一人なりに、子がいればなおのこと。

 

女性が強くなければならないのは、子を産み育てる性であることもあるかもしれないが、それだけ女性にとって生きることが困難な社会である証左かもしれない。

 

相変わらず乙川さんの文章は鋭く無駄がなく、心地よい時間だった。

 

 

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表紙は速水御舟の「炎舞」

 

 

なぜか低体温に逆戻りの3月

低体温に逆戻りと言っても、そもそも平均的な体温になったわけでさえない。この2年余、毎日朝一番の体温を測ってきたが、36度を超えることは風邪の時以外ほとんどなく、超えたとしてもせいぜい36度1分か2分で、それ以上の日は一日としてない。

 

せめて35度台の後半にはしたいと思い、鍼灸整体師のだるころさん(id:darucoro9216kun)に助言を求め、足ツボ刺激の方法をお教えいただき、不十分ながら自己流でまねごとを始め、その甲斐あってか12月は35度台前半はゼロになり、1月、2月も3回と、成果を得られていた。

 

ところが、何一つ変わらない生活をしていると思うのだけれども、3月は35度台前半の日が14日と、月の半分近くになってしまった。35度台後半の日も、5分、6分の日が10日を占めるという、文字通り低調な結果だ。まあ、特段体調が悪いわけでもないのであまり気にするほどのことでもないかとは思うが、体温が低くて良いことは一つもなさそうなので、なんとか上げられるものなら上げたいものだ。

 

低血圧、低体温、なんだか生命活動が低調な生きものって感じがする。その割には、内科的な問題は自分自身ではまるで感じていないけれども・・・。もしかしたら、内燃機関の活動が微弱な分、疲れも少なく故障も起きにくいとか?

 

 

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最近のマイブーム、ブローチのまとめ付け。

 

 

嬉しいシンクロニシティ

昨日市議会の傍聴から帰って郵便受けをのぞくと、関東に住む友からの便りが入っていた。私が葉書を投函したのは先週の土曜日なので、どんなに早くても、まだその返事が届くはずがない。

 

狐につままれたような思いで文面を読む。やはり友人がこの葉書を書いてくれたのは、私が彼女への葉書を投函する前日の26日になっているので、偶然同じタイミングで手紙を書いていたようだ。しょっちゅうやり取りしているわけではないのに、このシンクロニシティに不思議な楽しいものを感じた。

 

よく「念を送る」などと言うけれど、親しい人同士の間では、本当に脳の波動が届くことはあるのかもしれない。「以心伝心」とか「虫の知らせ」などの言葉もあるように。

 

常に電話を持ち歩き、メールやらLINEやらSNSやらいつでもつながれる便利な時代だけれど、ちょっときれいな葉書に手書きの文字の便りは、やっぱりとびっきりのプレゼントだと思う。

 

 

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Twitterに投稿された猫の島「青島」の猫ちゃん。手紙待ってるニャ!

 

 

 

 

小学校給食費無償化が潰される

昨年、私たち市民が応援し、現職を破って誕生した新しい市長になって4か月。一番の公約に掲げた「小学校の給食費無償化」の議案が、3月議会最終日の今日採決されるというので、友人と議会の傍聴に出かけた。

 

事前に自民・公明の会派や、一人会派の何人かの議員が反対をしていて、否決されるらしいという情報は入っていた。その反対の理由が、反対のための反対としか思えない屁理屈で、こんなことで潰されてしまうのかと残念でならない。

 

傍聴して、反対する人たちの議場での態度振る舞いをつぶさに見て、なるほど・・・と納得がいく思いがした。討論の内容もさることながら、演壇まで歩く様子やお辞儀の仕方から話し方などを通して、人間というのはたぶん自分が思っている以上に人間性が出てしまうものではないかと思う。翻って自分はどうなのかと恐ろしくなってしまうが。

 

当市は今現在も低所得世帯は給食費が無料なので、親の経済的負担を軽くするということなら現状でよい。教育の充実というのなら中学校を含めないのがおかしい。不登校で学校で給食を食べない子や、入院している児童やアレルギーで弁当を持参している児童などが不利益を被る。予算の確保が将来的に不確定で、今無理に始める必要を感じないなどといったところが反対の理由だった。

 

その一方で、昨年スタートした「イマージョン教育」という国語と道徳以外のすべての教科を英語で教えるという、一小学校の特殊なクラスのための予算は何億と確保されている。これを即刻やめて、全予算を給食費無償化に充てればいいように思うけれども。

 

昨年の選挙時、現職市長はパワハラがひどく、個人的に恨みつらみのある人が多かったせいか、公には自民党は現職支持を謳っていたにもかかわらず、実際には浅井候補を応援した議員もいたと聞いた。だから、自民・公明の会派の議員が圧倒的な議会だけれど、いくらか新市長はやり易いかなと考えていた。でも、それは甘い見通しだったようだ。いざ市政が動き出してみたら、会派は一枚岩になって議案をつぶしにかかったようだ。

 

原案に足りないところがあれば修正を加えればよい。議会というのはみなで議論を戦わせて、より良い施策を作り上げていく場ではないのか。肩身の狭い思いをして、低所得者の権利として給食費を無償にしてもらうより、無償が標準になるほうがどの子も幸せになる近道ではないのか。

 

自分のよって立つ政党や会派によって意見が決まってしまうなら、選挙で各党の得票数が決まった時点で解散し、任期中はそのパーセンテージにのっとって議案の可否を決めれば、議員報酬分経費が節減できる。現代なら、AIに各党の主義主張を学習させておいて、各議案への賛否を決めさせてもいい。

 

人と人が議論し、良い点を取り上げ、また人の意見に触発されてさらに良い案を出す。そうした作業ができることこそ、人間らしいところではないのかと思う。

 

 

イマージョン教育などというとんでもないことはすんなりと動き出してしまう一方で、給食費の無償化という本来当たり前とも思えるようなことが暗礁に乗り上げる。この世は分からない。

 

 

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市役所は豊橋公園に隣接しているので、先に私を下ろし、駐車場に車を止めに行ってくれた友人を待っている間、桜を眺めていた。昨日の雨でだいぶ花びらが散り敷いている。今日はハラリハラリと花びらが舞う、ご機嫌なタイミングだった。

 

日光が欠かせない

勝手に生えて繁殖する雑草だけれど、けなげな花がとてもかわいくてきれいなオキザリス・セルヌア。いつの間にかうちの玄関側の植え込みにもいっぱい咲いている。花のない時期には抜いてしまったりするが、元気をくれる黄色い花に今は楽しませてもらう。

 

ところが、伸びすぎたほかの植物を切っているときに、間違ってこの花も切ってしまい、可哀そうなので家に持ち込み飾った。最初はトイレの小窓に飾ったのだけれど、そうしたら北側にあるトイレの窓では光が弱いらしく、蕾のまま。それで、居間の窓際に置いたらこの通り。

 

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紫外線が目の敵にされる時代だけれど、人間も健康のためには適度な日光が必要。私もこもってばかりいないで、外気を浴びながらウオーキングするようにしなければ!

 

 

 

 

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以前墓参の帰りに不二家のレストランで食べたレタスチャーハンが美味しかったので真似してみた。ご飯は茶碗に軽く一杯くらいだったのに、具だくさんにしたのでボリュームたっぷりに。一人だと、何品も作らずワンプレートになるべく多くの材料を投入する形になりがち・・・。

 

ひとりお花見と木皿泉さんのドラマ

好天に誘われて、いつもの松根油の松林の公園に花を見に出かけた。先週だったろうか、ポニーにまた会いたいと出かけたときはまだ蕾は固かったのだけれど、今日はすでに五分か六分咲きといった感じになり、風景が一気に明るく華やかになっている。

 

今日もサニーちゃんには会えなかったが、私と同じように陽気に誘われて花見がてらに散歩を楽しむ人がちらほら。公園内にあるアイプラザという施設でどこかの幼稚園の卒園式でも催されたようで、お子さん連れでおしゃれした親子が写真を撮ったりしている。

 

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スーパーで調達したお弁当を広げる。昨夜NHKオンデマンドで見た『富士ファミリー2017』で、片桐はいりさん扮するおあばあちゃんと、鹿賀丈史さん扮するおじいちゃんが、青空と富士山を背景にドラえもんを思い出させる公園の、大きな土管の上に座って食べていたおにぎりが美味しそうだったので、今日は私もおにぎり弁当。

 

このあと持って行った熱いコーヒーを飲みながら読書の計画だったのだけれど、風が強くて落ち着かず、お弁当を平らげると早々に店じまい。帰り道では、今シーズン初めてさした日傘が風にあおられて歩きにくいほどの強い風だった。また風の穏やかな日に出直そう。

 

 

昨夜の『富士ファミリー』は以前放送されたときに、2016年にも2017年にもリアルタイムで見てとても良かったという記憶はあるのだけれど、今回オンデマンドで見直して、細部は相当忘れてしまっていたことが分かった。はいりさんのとぼけたおばあちゃんに何度も大笑いさせてもらい、またしんみりと心にしみるメッセージもあり、やはり木皿泉さんのドラマはいいなあと思った。

 

このドラマについては、つるひめさん(id:tsuruhime-beat)やmarcoさん(id:garadanikki)さんが素敵なエントリーを書いていらっしゃる。

 

『さざなみのよる』(木皿泉・著)~ドラマ『富士ファミリー』の前日譚 - つるひめの日記

 

木皿 泉 著『さざなみのよる』 - garadanikki

 

木皿さんのドラマは見た作品みな好きだけれど、DVDーBOXまで買ってしまった『すいか』がやっぱり私のベストワン。ストーリーも良いうえに、舞台となるアパート「ハピネス三茶」の雰囲気が好みだし、ともさかりえさん、市川実日子さん、小林聡美さんの3人の女優さんのファッションが素敵で、いまだに色褪せず楽しめる。

 

yonnbaba.hatenablog.com

 

この『すいか』の放送された翌年に、夫である(厳密にはこの時点ではまだ夫婦ではなかったが)和泉さんが脳梗塞でお倒れになったのだけれど、どうかお体に十分ご留意の上、末永くご活躍くださるよう願う。