あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

映像も物語も美しい『ロンドン、人生はじめます』

またまた大ベテラン女優の楽しい映画に出合った。今度はダイアン・キートン。2017年の作品なので、撮影時彼女は71歳だけれど、実にチャーミングで、カジュアルながら知性の香るファッションを素敵に着こなしている。

 

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相手役を務めるのは、『ハリー・ポッター』でマッドアイ・ムーディーを演じたブレンダン・グリーソン。老け作りの上に、森にすむ変人とあって、見た目はいくらロマンチックコメディとはいえ、ダイアンの相手役とは思えない風貌だ。でも、これが物語の良い味付けになっている。

 

ロンドン郊外の高級住宅地“ハムステッド”(映画の原題『ハムステッド』)で、実際にあった奇跡のようなお話をもとに作られている。高級マンションで暮らすエミリー(ダイアン)は、夫の死後彼の浮気や残された多額の借金を知り、いささか投げやりな日々を過ごしている。

 

くさくさした気分でマンションの屋根裏部屋に行った彼女は、そこで見つけた年代物の双眼鏡を手に取りなにげなく窓から覗く。するとその視界に近所の森の掘っ立て小屋が入り、そこで暮らすホームレスのような男性を知る。

 

興味をそそられてそこを訪ねて行った彼女は、そばの池で釣りをするその男性ドナルド(ブレンダン・グリーソン)と顔を合わせ話し始めるが、彼女のある言葉が彼を激怒させ、けんか別れになってしまう。このあとドナルドが実に洒落た方法で彼女に許しを請うのだが、これは見てのお楽しみ。

 

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住む世界の全く違う2人が、共感したり反発したり、間の悪い巡り合わせで誤解を生んだり・・・とよくある恋愛物語の展開があり、やがて大変な問題が持ち上がる。ドナルドの住んでいる土地は病院の跡地で、再開発をもくろむ不動産開発業者から立ち退きを迫られ、嫌がらせまで受けるようになる・・・。

 

 

既成の価値観の中で、なんとなく居心地の悪さを感じながらも、そこから踏み出せず流されるように生きていたエミリーだったが、ドナルドの自由な生き方に影響されて、自らの人生を見つめ直していく。ハムステッドという、物語の舞台となっている街も、ドナルドの暮らす森も大変美しく、ダイアンのファッションも素敵で、映像を見ているだけでも楽しい。

 

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私はエミリーの暮らす高級マンションよりも、あふれる緑と可憐な草花に囲まれたドナルドの手作りの掘っ立て小屋の方を好む人間なので、彼女の悩みにはまるで共感は覚えない。借金を清算した残りのお金で移ったのだから、当然以前のマンションよりずっとレベルは下がるのだろうが、あとで暮らすことになった田舎の家の方が私にははるかに魅力的に見える。さっさとそうすれば良かったのにと思うが、そうしていたらドナルドと出会えなかった!

 

せっかく障害が除かれながらも、やがて将来の考え方に違いが出て二人は決別してしまう。ドナルドはあくまでも森に住み続けたかったし、おそらくそれ以上に、過去に人間関係で深く傷ついていた彼は、エミリーが常識にとらわれて自分の世界から踏み出せなかったように、怖くて自分のテリトリーから出られなかったのではないかと思う。

 

もちろん、ロマンチックコメディなのでめでたしめでたしになるのだけれど、ラストがまたお洒落で可愛らしくて、とてもいい。

 

美しい画面にウットリして見るうちに、常識や過去の失敗に縛られていないで、自由に自分らしく生きることの大切さに気付かせてくれる映画だった。

 

 

(画像は各種映画サイトからお借りしています)