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資本主義経済の行きつく先?『悪貨』島田雅彦著

公園で暮らすホームレス、ある朝目覚めると足元にコンビニの袋が落ちており、その中には一万円札が200枚入っていた。

 

ホームレスは服装一式を買い、床屋で散髪し、町一番という店で寿司を食べるが、そのあと二人組の若者に残りの金の入った袋をひったくられる。有頂天になった若者はキャバクラで金を使い、紙幣はキャバ嬢の給与になり、その父親の期限の来た手形決済に使われ、やがてそれが精巧な偽札だったことが判明する。

 

資本主義経済の裏側が描かれ、それを倒し理想郷を作ろうとする男と、その男に、絶望していた少年時代に救われ、理想の実現のためになんとか力になりたいと思う若い男がいる。若い男は理想を追って他国に出ていき挫折を経験するが、その有能さと再び彼を見出した中国の陰の世界の実力者の助力も得て、信じられないような額の金を動かすようになる。

 

どこまでが実際にあることで、どこからが虚構の話なのかと悩む。信じたくない腐りきった資本主義社会。けれども、今日もパソコンを立ち上げれば目に飛び込んでくる「甘利氏、現金授受で招致応じず 1億5千万円の再調査も否定」などという文字。この8、9年の間、これに似たニュースをどれだけ目にしてきただろう。やはりこの物語に登場する話は、かなりのところまで現実なのだろうなと思わないではいられない。

 

いまや、政治家一人が受け取る金額でさえ億単位であり、与党幹事長が領収書もなしで自由に動かせるお金が何十億だの何百億だのというニュースが日常茶飯の今、庶民の金銭感覚も麻痺してしまい、この物語で問題になる偽札の流通額が500億というのがあまりに少額で、日本経済を混乱させるにはいささか現実味に欠ける気がしてしまうのは残念なところだ。

 

テーマは面白いし、目指すユートピアは私もひかれている社会のありようなので、夢中になって読んでしまったが、それだけに、もう少し救いのある結末にしてほしかった気がする。世界の状況や、この国の大衆を日々見ていれば、やはり現実は巨悪に飲み込まれていくしかないのかと思うけれど、だからこそ、読書の世界で留飲を下げたい・・・、いや現実逃避していないで、リアル世界で理想を実現せよという、著者の𠮟咤であろうか。

 

 

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