あとは野となれ山となれ

たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

素敵な街の本屋さん『サイン会はいかが?』大崎梢著

図書館を舞台にした小説にはつい手が伸びる(ただ、前回読んだ作品『ツクツク図書館』は私には残念だったけれど)。そして、図書館と同じように、本屋さんを舞台にした物語と言えば、『ビブリア古書堂』を上げるまでもないくらい、本が好きな人間には訴求力は強い。

 

大崎梢さんは知らなかったけれど、元書店員さんだそうで、本や書店への愛のあふれる、楽しい物語を知ることができた。この作品は『成風堂書店事件メモ』シリーズの三作目のようで、他の作品も気になるところだ。

 

主人公は駅ビルの6階にある成風堂という書店に勤める杏子。アルバイトから社員になったまだ24歳の若い女性だが、パートやアルバイトの人たちにも頼りにされる存在だ。立地が良いからか成風堂はなかなか盛況で、日々本屋さんのバックヤードはかなりの忙しさ。そしてそんな中で、日々さまざまなちょっとした事件が起きる。

 

第一話「取り寄せトラップ」は、同一書籍に4人の取り寄せ依頼があり、入荷の連絡をすると、4人が4人ともそんな注文はしていないと言う。誰が何のためにこんな嫌がらせを・・・。

 

こんな謎をみごとに解明してみせるのは、法学部に通う大学3年生で成風堂アルバイトの多絵だ。頭脳は明晰、謎は快刀乱麻で解くけれど、それを人に説明するのは少々マイペースで時に杏子を苛立たせたりもするが、自分の謎解き能力を「本屋限定ね」と微笑む謙虚な名探偵だ。

 

5つの短編で5つの事件が取り上げられるが、その陰に親子や友人の愛憎がからんで心を打つ物語になっている。同時に、ただ客として外から見ているのでは分からない、現代の本屋さんの大変さも垣間見えて興味深い。

 

ステイホームの時が続き、本はもっぱら近所の市民館から借りて済ませ、本屋さんには長らく足を向けていないが、この本を読んで、無性に本屋さんに行きたくなった。

 

 

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