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独立とはきっと自由に生きること『インディペンデンス・デイ』原田マハ著

365ページの本に24の物語。短編集と言うよりショートショート集。一つの話の中のほんの端役で登場した人が、次の物語の主人公になる。どんな人もその人の人生では主役であり、いろんな人にいろんな人生があるんだなあと、当たり前のことに気づかされ、そしてほのぼのとする物語の連続に、人生ってまんざらでもないねという気持ちになる。

 

登場人物はみんなどこにもいそうな人々だ。それぞれ人生に不満を持っていたり、思うようにいかない日を過ごしたりしている。そうした中で、ちょっとしたことから心の持ちようを変え、前向きに生きていくようになる。言葉通りの「独立」を果たす人もいれば、こだわりから解き放たれて本当に大切なものに目覚める人もいる。

 

短い話なのにどれも心を打つ。とりわけ、水商売の母に反発を感じて国立大学に行くが、気が付けばバーテンダーになっていた女性を描いた『雪の気配』、テレビのリポーター兼キャスターをしている女性が、ふとしたことから議員とのスキャンダルで仕事を失う『ふたりの時計』、夫亡き後一人で理髪店を営む老婦人と、売れない漫画を描いている女性の物語『バーバーみらい』、その売れない女性漫画家の出世作が縁で、おばあちゃんの理髪店へ帰っていく孫娘のお話『この地面から』、女性社員仲間になんとなく馴染めないでいる女性と、その会社のトイレ清掃を担当する女性との交流を描いた『缶椿』・・・と、ああ、やっぱりとても絞り切れない!

 

 

著者の原田マハさんは1962年生まれということで私とは約10年しか違わないのだけれど、言葉の選び方の感覚はもっと距離を感じる。言葉に関しては私が保守的なのかもしれない。でも、良い作品なだけに、もう少し時の流れに耐えうる言葉の選択がされたら良かったのにと惜しむ。

 

「真逆」とか「ヤバい」とか「合わなさそう」「つまらなさそう」という言葉が、会話の中でも抵抗があるが、まして地の文に出てくるのは残念だ。もちろん、それらを補っても余りある良作だとは思うけれども。

 

たくさんの登場人物の中に小説家が出てきて、自分のファンだと言う主人公の女性に、最新刊の『独立記念日』という作品をプレゼントする。そしてその作品について、「ひと言で言うと、会社とか家族とか恋愛とか、現代社会のさまざまな呪縛から逃れて自由になる人々が主人公の短編集です」と説明している。これがまさに、この作品に込めた著者の思いだろう。

 

さまざまな呪縛とは、ひとの決めた価値観かも知れない。こういう場所に住むことが、こういう職場で働くことが、こういう暮らしかたをすることが、こういう恋人を持つことが・・・「格好いいこと」。そして、SNSで「いいね」をたくさん獲得することが大切なこと。

 

そんな呪縛にがんじがらめになった人たちが、現実に、日々さまざまな問題を、事件を、起こしている。いま世間を騒がせている、カルト宗教と離れがたくつながってしまった政治家たちも、「選挙に落ちればただの人」という価値観に縛られている。思うような報道をできないでいるマスコミ人たちは、「大会社から脱落したら幸せな人生はない」と思い込んでいるのだろう。

 

でも、じつは自分の心の持ち方ひとつで、人生はいくらでも変わる。自分を縛るもろもろのものから自由になって、真に独立した人生を生きる決意だけが、自分を真に幸せにするのではないだろうか。

 

 

キリリとした表情で風に向かって立つ少女が清々しい。手元に置いて、ちょっと気持ちが沈んだときなどに、短い一編を読むだけで心が立て直せるかもしれない。