主人公栞は1978年生まれ、いわゆる氷河期世代だ。大学を出て働きながら小説を書いている。大学生の時から付き合い、今は一緒に暮らしている相手の紙川は同じ年の早生まれで学年は一つ上だが、公務員を目指しながらもいまだ塾のアルバイトをしている。
紙川はきちんとした職に就けていなくても、気にせず新しい自由な生き方をしているように見えるが、芯の方で古い男性観にとらわれているようだ。それにひきかえ栞は人前で意見を言ったりすることはまれでも、芯は強く、自分の人生を切り開き自由に生きていく。
私は子どもを産みたいが、周囲の雰囲気に飲まれて産むのは嫌だ。もちろん、自分さえ楽しく生きられれば良いと考えているわけではなく、死んだあとの世界をより素敵にできるような生き方がしたい。人間として生きていくにあたって、個人として過ごすだけでなく、周りの人間の役に立ちたい。そのとき、もしも子どもを産まなければ人類の役に立てないと考えるとしたら、同性愛の人たちにはどう言うのか。子どもを産まなくとも社会を明るくしている人は大勢いる。現代日本における「少子化対策」「不況を乗り切るためには連帯や結婚が大事」というプロパガンダ、それは「産めよ、増やせよ」と第二次世界大戦下に謳われたのと同じだ。
現代社会に合わせて人生設計を立てるなんて、ばかだ。社会というのは、作れるものだ。そこに合わせて生きるのではなく、大人になった私たちがこれから構築し、新しい生き方を始めるのだ。もっと寛容な、未来の社会に人生を設定して、これからの時代を自分で作りたい。
まるで戦時下みたいなたくさんの死者が、自殺によって生まれているこの国で、私はまだ、自分が何をすればよいのかを知らなかった。
こう考える栞のような若い人に希望を感じる。政治の作る社会で、パンやサーカスに騙され翻弄されて生きた今までの多くの人々。「社会というのは作れるものだ!」と1人でも多くの人が気づいて、自分探しなどせずとも、当たり前に暮らす中に幸せを見いだせる社会を作って欲しい。