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たいせつなことは目には見えないんだよ・・・

読書感想初めは、少々怖い『パレード』吉田修一著

新年の最初にご紹介するには少々毒が強い気のする作品だけれど、今日は5日、そろそろお屠蘇気分も振り切って日常に戻らねば!という気分の切り替えにはなるかも知れない。

 

年末に民生委員の用事で校区市民館に行った折り、図書室で吉田修一さんの『青春』という分厚い本を見つけ借りてきた(いつも利用しているのは中学校区ごとに設置されている地区市民館で、校区市民館の方は小学校区ごとに設置されている)。

 

600ページを超える分厚い本は、さらに細かな活字の二段組みで、著者の作品から青春ものに分類できるものを集めた作品集になっている。このほか「恋愛」「犯罪」「長崎」とあるらしい(「長崎」は今年3月刊行予定)。

 

このコレクションの最後に、ちょうど読んでみたいと思っていた山本周五郎賞受賞作『パレード』が収録されていた。今まで読んだ吉田さんの作品が比較的爽やかなものが多かったし、2010年に映画化もされていたようだが私は全く知らなかったので、まさか読み終えてじわっと怖ろしさに包まれることになるとは思いもしなかった。

 

物語はルームシェアをして暮らす主要登場人物男女5人の、それぞれの視点で語られる連作短編のような形で進む。最初の語り手が「横道世之介」を彷彿とさせるのんきな大学生良介なので、すっかり「横道」のようなのどかな青春物語だと思って読んでいると、二番手、三番手と徐々に不穏な空気が流れ始め、結構危なさを秘めた人たちではないかと感じ出す。

 

主な舞台となるマンションは、もともとインディペンデントの映画配給会社に勤める直輝が恋人の美咲と住んでいたのだが、二人の間に微妙な空気が流れるようになって、直輝の後輩の後輩という良介が緩衝材のように取り込まれ、やがて恋人である売り出し中の俳優を追って上京した琴美や、イラストレーター兼雑貨屋店長で大酒飲みの未来が同居するようになり、いつのまにか「夜のお仕事」勤務の少年サトルが加わる(美咲は途中で他の恋人を作りいなくなる)。

 

環境も性格もまるで違う男女ながら、和気あいあいとした日々が流れているのだが、その穏やかさは、誰もがそこに「必要とされる」自分を演じているからではないかということが見えてくる。

 

意外な人の意外な顔が暴かれ愕然としていると、最後にさらなる衝撃が来て、読み手はその静かな怖さの中に取り残される・・・。

 

 

これから読もうと思う方のために詳しくは書かないが、現代の若者の側面を鋭くとらえているのではないかと感じた。空気を読んで、求められる行動をしてしまう。傷つくことを恐れて、深く交わろうとしない。

 

子供たちは、このようになろうと思ってなったのではない。子供の数も少なく、嫌でも濃密な親子関係になり、良くも悪くも息苦しい子供時代になりがちだ。呑気だと思っていた良介に、一瞬だけえっと思う行動があるが、こういう瞬間が誰にでもあるのではないかと思う。大人の目が届かなかった昔なら、子供の集団の中で小さな爆発のさせ方を知らず知らず学び、解消されていったのかも知れない。現代ではみんなこぢんまりとお利口さんに育ち、大きな爆発の種を抱え込んでいるのかも知れない。

 

一読では消化不良で、ネットで他の方たちの感想を探してしまった。同じような方が多かったらしく、「〇〇の理由が分からずこちらのサイトにたどり着きました」というようなコメントにも出合った。

 

それらを参考にして読み返してみると、この部分にこんな意味があったのではないか、ああ、ここでこんなふうに兆しが・・・などの発見もあった。自分は全然こんなおかしな人たちとは違う・・・と思っても、案外自分の中にも閉じ込め飼いならした怒りや、枠をはずしたい欲求があるのかも知れない。

 

だからと言ってこの物語の場合、どこでどうしていたら穏やかな未来につながったのかも分からないのだけれど、やはり生身の人間が暮らすこの世は、ぶつかり合うことを恐れてはだめなのではないか。リモートで済むことも少なくないけれど、大切な人ときちんとつながるためには、じかに触れあい、言葉にする、分からなければ聞き直す、何度でも分かるまで聞き直す、そんな単純なことが必要なのではないかという気がする。

 

でも、下にどんな残虐シーンが録画されていようが、楽しいピンクパンサーの行進を上書きしちゃえば(ビデオテープじゃない今は、ちょっとピンとこない表現になってしまった)いいじゃない、表面的だろうと、賑やかなパレードが楽しくていいよ、真実って何?と考える人もまた、いることだろう。

 

そんなことを考えさせてくれる作品だった。

 

 

 

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